『牛乳入りのパン生地は固くなります。』
↑↑よく聞く言葉ですが、みなさんは実際にパン生地を扱う時にそう感じていますか?
実は、私自身はこう感じていました。
『牛乳でも水でも同じでしょ。』
水分の違いで、そんなにパン生地の固さは変わる?
なんだかハッキリしないし、もやもやするなぁと思っていました。
材料の水分量はレシピによって違います。
どんな食感のパンを作りたいのか?
必ずしも水分量の多い配合が良いわけでもありません。
必要以上に水分が多いと、パン生地がだれて膨らみが悪くなることもあります。
先に結論から言います。
牛乳をいれたパン生地は固くなります。
このブログでお話したいのは、その理由は何なのか?という部分です。
単に水分量の問題だけではありません。
牛乳を入れたパンが固くなる理由は、とっても科学的です。
パン作りの奥深くまでしりたい方へ。
とってもおもしろい内容だと思いますので、参考になれば嬉しいです(^^)
パンの発酵に影響する?牛乳に含まれる灰分とは
まずは、牛乳の成分に注目していきましょう。
文部科学省の食品成分データベースを参考にさせていただきました。
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=13_13003_7
牛乳100gのうち87.4%は水分です。
残りの約12%が乳固形分で、乳脂肪分と無脂乳固形分に分かれています。
今回注目するのは、カルシウムやリンなどのミネラルを含む灰分です。
牛乳の0.7%を灰分が占めています。
たった0.7%です。
この量は多いの??と思うかもしれませんね。
パン生地作りはミクロの世界で、色々な材料が互いに影響しあっています。
ほんの少しの塩でも、入れ忘れるとパン生地は膨らまなくなります。
パンの材料の中では、水分というのは小麦粉の次に配合量が多いものです。
小麦粉の灰分はパンの味や作業性にも大きく影響してきます。
牛乳の0.7%の灰分も、パン作りでは無視できないものなのですね。
さて、灰分はパン生地にどのように働きかけるのでしょうか?
ここからは、少し難しくなります。
灰分には『緩衝作用』という働きがあります。
緩衝作用?????(・_・;)
pH(ペーハー、ピーエイチ)に関係する用語に『緩衝作用』というものがあります。
イーストの働きにpH(ペーハー)が関係する?
イーストが発酵することで、炭酸ガスが発生してパンが膨らみます。
イーストは最近ですから、働きやすい環境というものがあります。
それが温度やpH(ペーハー)です。
温度はよくわかりますよね。
イーストは温かい場所でよく発酵します。
そのため、発酵器の温度は30~40℃に設定することが多いのです。
ではpHは?
イーストは、パン生地のpHが酸性に傾いているほうが
元気いっぱいに発酵活動をしてくれます。
イーストが発酵しやすいpHは4.5~4.8と言われています。
実際には、パン生地のpHはもう少し高めの5.0~6.5の弱酸性に保たれていることが多いそうです。
ここで疑問がわきますね。
材料にそんなに酸性のもはないはずだけど、、、
そう思いますよね。
でも、実はパン作りの材料の多くは弱酸性を示すそうなのです。
そして、発酵中にパン生地を酸性にするものが作られているという事のようです。
だんだん気になってきます(笑)
パン生地の中には、空気中や材料に付着していた乳酸菌などの細菌が混入しています。
乳酸菌は発酵によって乳酸を酸性します。
この乳酸がパン生地のpHを下げていくのです(酸性側に傾く)。
乳酸菌とパン酵母はとても仲良しの関係です。
乳酸菌が一緒にいるだけで、イーストは快適空間で発酵してくれます。
細菌の世界にも、相性ってあるのでしょうね。
牛乳の緩衝作用がイーストの発酵を遅らせる
緩衝作用に話を戻しますね。
緩衝作用というのは、多少の酸やアルカリをいれても
そのもののpHがほとんど変わらないように働く事を言います。
パン生地でいうと、発酵中に酸性された乳酸が貯まりパン生地は酸性に傾くはずです。
しかし、緩衝作用のある灰分が多く含まれるパン生地では、
なかなかパン生地のpHが酸性になりません。
イーストは酸性の環境が快適なのですから、
pHが高く酸性でないパン生地の中では、発酵が遅くなってしまうのです。
牛乳の配合量が多いレシピがなかなか発酵しないなぁという時は、
この牛乳の灰分がもつ緩衝作用が関わっているかもしれません。
牛乳入りのパン生地が固くなる理由とは?
さて、牛乳入りのパン生地の発酵が遅くなる理由は、
灰分のもつ緩衝作用だということがわかりました。
では、牛乳入りのパン生地は本当に固くなるのでしょうか?
実は、ここにも灰分がもつ緩衝作用が関わってくるのです。
パンが発酵すると、パン生地はとても柔らかくなります。
そして、よく伸びる柔軟性のある状態になりますよね。
捏ね上げた直後のプリプリと弾力のあった生地が別もののように変わります。
これも、pHの変化が影響しているのです。
pHが酸性になると、パン生地は柔らかくなります。
パン生地がオーブンの中でグーンと大きく膨らむためには、
柔軟性がありつつ適度に張りもある状態にしなければなりません。
パン作りは、常にこの『緊張』と『弛緩』という作業を繰り返しているのです。
牛乳に含まれる灰分の緩衝作用によって、
発酵中もパン生地のpHは中性付近からなかなか酸性に変わりません。
酸性になるからこそ、パン生地は柔らかく伸びやすくなります。
しかし、十分にpHが酸性にならないために、
牛乳入りのパン生地は弾力を持ったまま発酵が進んでいくのです。
このように、牛乳が入るとパン生地が固くなるというのは、
理論上も説明することができます。
ただ、発酵が遅くなるならじっくり待てば良いですよね。
発酵が進めばだんだんと生地の弾力は弱くなって、柔軟性をもつパン生地になるはずです。
レシピから見直すなら、材料の水分量でパン生地の固さを調整することもできますよね。
どんなパンに仕上げたいのか?
そのイメージをもって、パン生地を観察しながら発酵の見極めを行えば
牛乳入りのパン生地もよく膨らむようになるはずです(^^)
パン作りは決して、レシピ通りの時間ではできません。
毎回パン生地の状態を見ながら、作業を行いましょう。
パン屋さんはそんな余裕のあることは言ってられませんから、
温度管理も厳密です。
過程のパン作りはそれとは違う柔軟のある気持ちで行う方が
上手くいくと思っています。
それが家庭のパン作りの面白さでもあります。
◎まとめ◎牛乳入りのパン生地は発酵が遅く、固くなりやすい!
牛乳入りのパン生地はそれがもつ灰分の働きによって、
発酵が遅くなり、パン生地の弾力が強くなりがちです。
その理由は、灰分の緩衝作用です。
イーストの発酵活動はpHが低い酸性のほうが、元気いっぱいに炭酸ガスを発生します。
しかし、灰分の緩衝作用がは働くと、
パン生地のpHは中性付近のまま変わりにくくなってしまいます。
その結果、イーストの働きが弱くなり、発酵が遅くなります。
そして、pHが十分に低くならないと、
パン生地の弾力もなかなか取れず柔軟性の低いパン生地になってしまいます。
牛乳入りのパン生地で注意したいのは、
これらの特徴を理解した上で作業を行うことです。
牛乳入りのパンが固くなる?
そんな実感ないよな~と思っていた方は、
むしろ、きちんと生地の状態をみてパン作りができていた方なのだろうと思います。
発酵はじっくり待つ。
パン作りは時間ではなく、その時の見た目と感覚を最優先してください。
パン生地の弾力の強さは、発酵を十分にとることと、
水分量を調整することで改善することができます。
失敗の原因がわかっていれば、必ず成功につながります。
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参考資料
科学でわかるパンの『なぜ?』