【パンの材料Q&A】パン作りで卵黄を入れる効果とは?乳化剤としてのレシチンの働き

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パン作りの材料で『卵』は、多くのレシピで使われています。
『卵』というのは、いわゆる全卵の事です。

そして、もう一つ。

パン作りで卵を使うレシピの中には、卵黄だけを使うという場合があります。

実際に卵黄が入ったレシピでパンを焼いてみます。

すると、しっとりふわふわになります。
そして、時間が経っても硬くならないのです。

卵黄入りのパンは、しっとりして美味しいというイメージを持つ方も多いはずです。

このブログでは下記の疑問について詳しく解説していきたいと思います!

◎卵黄に含まれる乳化剤とは
◎パン作りにおける卵黄の効果
◎卵黄入りのパンの特徴

全卵と卵白についてはこちらのブログに詳しく記載しています(^^)
【検証!】卵を入れたパンはどう焼きあがる?/味・食感・膨らみに影響する卵の効果
【パンの材料Q&A】パン作りに卵白だけを使うことはあるの?/卵白の効果について

卵黄の成分は?乳化剤としての役割

パン作りでの卵黄の効果を考える前に、卵黄の成分を紐解いていきたいと思います。
卵黄の成分の中で、どんなものがパンに影響するのかという事が
わかっていると、とても理解しやすくなります。

卵黄は、水分を49.6%、タンパク質を16.5%、脂質を34.3%含みます。

他に炭水化物も含まれますし、各種ビタミン類も豊富で栄養価の高い食材です。

この中で注目したいのが、卵黄の中には脂質を34.3%も含んでいるというところです。
約1/3が脂質という事になります。

この脂質の中に、『レシチン』という成分を含んでいます。

『レシチン』という言葉は、何となく聞いたことがあるかもしれません。

パンもそうですが、お菓子作りやお料理でも、卵黄に含まれるレシチンの力は欠かせないものになっています。

なぜか?

それは、卵黄に含まれるレシチンリポタンパク質*が乳化剤として働くことができるからです。

*リポタンパク質とは、脂質とタンパク質が結びついているもの。レシチンが単独の時よりも、リポタンパクと一緒にいる方が乳化の力が強いと言われるそうです。

乳化という言葉を先に説明しますね。

乳化というのは、本来混じり合わない油と水が分離せずに混じり合っている状態を言います。(図1)

図1

乳化剤は水と混ざる部分(親水基)と油と混ざる部分(親油基)を持っているのが特徴です。
そのため、油とも水とも仲良く手をつなぐ事ができるのです。

なんとも八方美人さんなのが、乳化剤です。

乳化剤がどんな良い事がするかというと、油の粒の周りをぐるりと包み込んで水の中に隠し込んでしまう事ができます。(図2)

包みこまれた油は、見た目ではもう見えない状態になっています。
この状態を乳化と言います。
ちなみに、水の中で油が分散しているものを水中油滴型(O/W型)という言い方をします。

図2

例えば、マヨネーズ。

マヨネーズの材料は、サラダ油・酢・卵黄です。

◎油・・・サラダ油
◎水・・・酢
◎乳化剤・・・卵黄の中のレシチンやリポタンパク質

マヨネーズは水中油滴型(O/W型)の代表です。
身近なものだと、とてもイメージしやすいと思います。

繰り返しになりますが、卵黄に含まれるレシチンとリポタンパク質は天然の乳化剤としての働きがあります。

そのため、パンに卵黄を配合するとレシチンやリポタンパク質が乳化剤として働き、
焼きあがったパンに様々な影響を与えていくのです。

【卵黄の効果①】パンがしっとりする

卵黄を配合したパン生地は、確かにしっとりしています。
一度、食べてみるとよくわかります。

なぜ、このような焼き上がりになるかと考えていきましょう。

先ほどもお話した通りに、卵黄には天然の乳化剤のレシチンなどが含まれています。

すると、パン生地の中でも、レシチンとリポタンパク質が乳化剤として働くのです。

パンの材料の中には水分になるものと、油分になるものがありますよね。
卵黄の中の乳化剤がその水分と油分を均一に分散させる役割をしてくれます。

この場合、パン生地の中では油分が水分の中に分散している状態の水中油滴型になっています。

パン生地の中で乳化がすすむと、生地がとてもなめらかになります。
そして、生地がよく伸びるのです。発酵中もオーブンで焼いている時もふんわりとよく伸びることができます。

また乳化した生地の中では、材料が細かく分散して混じり合っています。
このような理由から、焼きあがったパンはしっとりと、口当たりの良い生地になるのです。

【卵黄の効果②】パンがよく膨らみ、ふんわりする

前章でもお話した通りに、卵黄の中のレシチンやリポタンパク質が乳化剤となり、
卵黄が配合されたパン生地では乳化が進みます。

結果として、パン生地はなめらかによく伸びるようになるのです。

また、乳化剤の効果はパン生地中のデンプン粒にも影響しています。

パンの材料の小麦粉は炭水化物ですから、デンプンを多く含んでいます。
デンプンはオーブンの中で焼かれることで、焼き固められてパンのふっくらした内相をつくる主役のひとつです。

お米が炊飯器で炊かれて、ふっくら美味しいごはんになるところをイメージしてみてください。

硬いお米がたくさんの水分を含んで、ふっくらと粘り気のあるごはんになりますね。

片栗粉などもそうですが、デンプンは水を含んで加熱するとネバネバと粘り気のある物質になります。これを糊化(α化)と言います。

パンがオーブンの中で加熱されると、パン生地の中のデンプン粒に水が吸収されて加熱され、粘り気のある物質になっていきます。

ここで粘り気が強くなりすぎると、パン生地の伸びが悪くなってしまいます

一方で、乳化剤には、デンプン粒の粘り気を抑える効果があります。

粘り気が抑えられたパン生地は、とても伸びやすい状態にあるため、
オーブンの中でよく膨らんで釜伸びがよくなります。

結果として、ふんわりとボリュームのある焼き上がりになるのです。

【卵黄の効果③】パンが時間がたっても硬くならない

パンは焼きたてはとても柔らかいですが、時間が経つとだんだんと硬くなってしまいます。

これは単に乾燥してしまうからではないのです。

ヒントは『ごはん』です。

また、ごはんです(笑)
デンプンをイメージしてもらうには、一番身近でわかりやすいものなのです。もう少しお付き合いくださいね。

ごはんも炊きたてはふっくらと美味しいですが、
冷蔵庫で一晩置いたとしたらカチカチに硬くなってしまいますよね。

これは乾燥、、ではないですよね。

この理由もデンプンに隠されています。(図3)

図3

デンプン粒は生の状態では非常に密な構造をしています。
ここで、水とともに加熱されると、密な構造がゆるんで水がデンプン粒の中に入り込んでいきます。そして、次第に粘り気がでて糊化(α化)した状態となります。

糊化したばかりのごはんは、ほっかほかで柔らかいです。
デンプンが水をたっぷり含んでいますからね。

でも、このごはんを冷蔵庫にいれて置くと、デンプンの構造に変化がおきます。

はじめに難しい用語を言いますね。
炊きたてごはんが時間とともに硬くなる現象は、
デンプンの老化(β化)という言葉で説明することができます。

デンプンの老化というのは、糊化して水分をたっぷり含んだデンプン粒の中で、デンプンが元の密が構造に戻ろうとする現象です。

デンプンが元の密な状態に戻ろうとするわけですから、デンプンに含まれていた水はどんどん追い出されていきます。
生のデンプンの時と同じような密な構造になるわけではありませんが、部分的に水を含みながら再び密な構造へ変化していくのです。

一部の水が追い出されてしまったデンプンは、ふっくらした柔らかい状態から
硬くなってしまうという事になります。

せっかく糊化して柔らかくなったご飯が、時間とともにデンプンが老化して硬くなってしまう。
デンプンの性質を理解すると、すっきり整理する事ができますね。

さて、パンに話を戻します。

パンに含まれるデンプン粒でも、ごはんと同じ現象が起こります。
すなわち、焼きたてはふっくら柔らかいパン生地が、時間とともに硬くなってしまいます。

つまり、焼きたてから時間が経ってしまうと、
パンのデンプン粒に含まれていた水分が外に追い出されてしまうという事になります。

ここに、乳化剤が登場します!

卵黄のレシチンやリポタンパク質などの乳化剤は、パン生地を水中油滴型(O/W型)に乳化しています。

デンプン粒にも乳化剤が水中油滴型の状態で染み込んでいます。
この結果、パンのデンプン粒の構造が密になりにくくなり、デンプンの老化を抑える働きがあるのです。

このような理由から、卵黄を配合したパンは時間が経っても硬くなりにくいという事がわかります。

◎まとめ◎卵黄入りのパンの特徴

卵黄に含まれる天然の乳化剤のレシチンとリポタンパク質に注目して、
卵黄がパンに与える効果についてお話しました。

◎卵黄はレシチンとリポタンパク質という乳化剤を含む
◎卵黄の効果①:パンがしっとりする
◎卵黄の効果②:パンの膨らみが良くなる
◎卵黄の効果③:パンが時間が経っても硬くなりにくくなる

卵黄には、上記のような効果の他にも、パンの栄養価を高めるという大切な役割があります。

また、卵黄入りのパンで特徴的なのは、クラム(内相)とクラフト(皮)の色付きです。
卵黄はカロテノイド色素を含んでおり、綺麗なオレンジ色をしていますよね。

卵によっては、卵黄の色の薄いものから濃いものまであります。

卵黄を配合したパンのクラム(内相)は、ほんのり卵色に色付きます。
香ばしい皮の香りとともに、卵色の優しい味わいのパンが焼き上がります。

『しっとりふんわり、そして長持ち』
何だか良いことばかりの卵黄の効果なのです(^^)

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参考資料
科学でわかるパンの「なぜ?」
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム
NEW 調理と理論 第二版