イーストの発酵には糖分が必要なのに、砂糖不使用のレシピがあるのはなぜ?
この疑問↑、とっても不思議ではないですか。
私もパン教室で教えてもらうまではこの答えを知りませんでした。
とても不思議で面白い。
パン作りに慣れてくると、ただ楽しくて作っていた頃とはとは違う疑問が湧き出てきます。
冒頭の質問もそのひとつであると思います。
フランスパンと呼ばれる種類のパン。
例えばバケットなどには、小麦粉・塩・イースト・塩というパンの基本の材料の4つだけで作られている事が多いです。
イーストは糖分をガソリンにして発酵活動を行うはずなのに、、、
砂糖がない!!
では、イーストの栄養源になる糖分はどこから生み出されてくるのでしょうか?
このブログでは、ちょっとマニアックに。
ですが、小麦粉の科学とイーストの発酵のシステムをわかりやすく解説していきます!
パンの小麦粉に含まれるデンプンとは?
パンの材料としては小麦粉は欠かせません。
パン作りにおいては、小麦粉の成分として注目させるのは『タンパク質』です。
なぜか?
というと、それは小麦粉のタンパク質が、パンを膨らますもとになるグルテンを作り出すからです。
パン作りをしている人で、グルテンという言葉を聞いた事のない方はいないのではないでしょうか。
グルテンはパンの骨格を作る最重要パーツ。
穀物の中で小麦粉がもつ特徴であり、だからこそ小麦粉がパンの材料として使われるのです。
脱線しましたが、意外と忘れがちな成分が小麦粉の『炭水化物』という側面です。
デンプン。
小学生?中学生?どこかの理科でたくさん聞いた覚えのある響きです。
ここのお話しはまさしく、その理科の話になります。
デンプンは小麦粉の約70%を占める成分です。
パンの構造からみると、先ほどお話したグルテンは骨組みの部分です。
そして、デンプンは骨組みを埋める壁のような役割をします(図1)。
デンプンを作っているのは、無数のブドウ糖です。
上記の文章。ここが最大のポイントです。
何となく予想がついてきた方は鋭いですよ!
最初に冒頭の質問の答えを言ってしまいますね。
砂糖なしのパンでイーストが発酵するための栄養源を供給するのは、
小麦粉に含まれるデンプンです。
小麦粉に含まれるデンプンはブドウ糖が連結している巨大な分子構造をしています。
しかし、イーストにはデンプンそのものを原料にして発酵を行うためのシステムがありません。
では、どうすれば小麦粉のデンプンがイーストの栄養源になりうるのか。
詳しく考えていきましょう。
【パンの小麦粉の科学①】損傷デンプンと健全デンプンとは?
最初に断りをいれると、ここの話はマニアックです。
でも重要。知っておくとパン作りの知識はかなり深まりますので、ぜひ一読していただければ幸いです(^-^)
小麦粉は収穫される時は小麦粒の状態で、固い外皮に覆われています(図2)。
粉末状の小麦粉となるためには、工場で製粉されていきます。
その時、小麦粒がロール機を通過して製粉されるときに、一部のデンプンに傷がついてしまうことがあります。
そのようにして、傷がついてしまったデンプンの事を損傷デンプンと言います。
そして、傷つかずに製粉された健全デンプンとは区別をして扱われます。
なぜなら、損傷デンプンと健全デンプンは異なる特徴を持つためです。
お米を炊くときの事をイメージしてみましょう。
お米もデンプンを主成分としています。
お米に常温の水をいれても、それ程多くの水を吸いません。
これを、加熱すると非常に多くのお水を吸収してピカピカの白いご飯が炊きあがります。
何が言いたいかというと、デンプンが多くの水を吸収するためには加熱することが必要なのです。
しかし、損傷デンプンはこれとは違う性質を持ちます。
先ほどもお話ししたように、損傷デンプンには傷があります。
その傷や欠けた部分から常温であっても、水を吸収するのです。
そして、水を吸収することによって、デンプンに酵素が働きかけて分解されていきます。
(詳しくは次章で♪)
余談ですが損傷デンプンの量は、多すぎても少なすぎても良くないのです。
損傷デンプンの量は私が参考にしている図書では全デンプンの4%~15%とかなり幅がりました。損傷デンプンが多すぎると、パンの膨らみや食感にも影響しも影響してくるそうです。
【パンの小麦粉の科学②】デンプンが分解してできる麦芽糖
小麦粉に含まれる全デンプンのうち、多くをしめるのは健全デンプンです。
一方で、製粉過程で傷ついてしまった損傷デンプンがあります。
この損傷デンプンが常温でも水を吸収し、様々な酵素反応の主役になっていくのです。
さて、ここでうん十年前の理科の授業を思い出してみましょう。
◎デンプンを分解する酵素は何でしょう??
答え:アミラーゼ
パンの小麦粉でも同じです。
小麦粉のデンプンを分解し、麦芽糖にするために働くのはアミラーゼという酵素です。
ところで、アミラーゼはどこからやって来たのでしょうか?
2択にしましょう!
①小麦粉
②イースト
どちらだと思いますか?
答えは、、、②小麦粉です。
アミラーゼは小麦粉自身がもつ酵素です。
パン作りの材料の小麦粉と水。これらは捏ねる段階で出会います。
この時に小麦粉に含まれる損傷デンプンも水を吸いこみます。
そして、小麦粉由来の酵素であるアミラーゼによって分解されて麦芽糖になるのです。
デンプンはブドウ糖が無数に連結した構造をしています。
一部は枝分かれをしていて、巨大な分子になっています。
アミラーゼは、ブドウ糖の連結をどんどん切っていきます。
そして、出来上がった麦芽糖は2つのブドウ糖が手を繋いでいる構造をしています。
ブドウ糖は単糖類。
麦芽糖は二糖類です。
この分類は、単純に数の問題ですので、とてもわかりやすいですよね。
ここまでで、小麦粉のデンプンから二糖類の麦芽糖ができあがりました。
見返してみると、まだイーストは全く関係していません。
イーストの活躍の場はこれより後になります。
ここから一気に発酵の話までいきますよー!
【イーストの働き】麦芽糖をブドウ糖に分解する酵素マルターゼ
繰り返しますが、イースト自身の力だけで小麦粉のデンプンを発酵活動に利用することはできません。
しかし、二糖類の麦芽糖になると、イーストが持つ酵素を利用してブドウ糖に分解することができるのです。
図3の赤い点線で囲まれた部分に注目してください。
小麦粉のデンプンが分解されてできた麦芽糖は、イーストの細胞内に取り込まれます。
そして、イーストが持つマルターゼ(麦芽糖分解酵素)によって、ブドウ糖2分子に分解されるのです。
◎麦芽糖→(マルターゼ)→ブドウ糖2分子
おぉー!やっとブドウ糖がでてきました!
イーストが直接発酵活動に利用できるのは、単糖類のブドウ糖や果糖です。
麦芽糖が分解されてできたブドウ糖は、イーストの持つ酵素チマーゼによって発酵活動に利用されて、炭酸ガスとアルコールを発生するのです。
◎ブドウ糖→(チマーゼ)→炭酸ガス+アルコール 【発酵】
砂糖なしのパンを作るのは時間がかかる
砂糖なしのパンが膨らむ理由を下記にまとめます。
①小麦粉の損傷デンプン→(小麦粉由来のアミラーゼ)→麦芽糖
②麦芽糖→(イースト由来のマルターゼ)→ブドウ糖
③ブドウ糖→(イースト由来のチマーゼ)→炭酸ガス+アルコール
ざっと、これだけのプロセスが必要になります。
単純に考えても、砂糖を材料として最初から配合している場合よりも時間がかかるのです。
砂糖(ショ糖)が原料になる場合は、イーストがもつインベルターゼによって早期から発酵活動をすることができるからです(図4黄色点線)。
そのため、砂糖不使用のパンは発酵しパン生地が膨らむまでにある程度の時間が必要です。
このメカニズムから考えても、砂糖不使用のパンを短時間で作ろうとするのは無理があるだろうという想像がつきますね。
適正量の砂糖が配合されたパンと、砂糖不使用のパンを同じ時間発酵器にいれても、
同じだけの膨らみを得ることは難しいでしょう。
バケットなどのシンプルなパンは、少ないイースト量で小麦粉の味わいを活かすために、時間をかけて発酵させて作っていきます。
その裏には、小麦粉の科学とイーストが持つ酵素反応が効率的に働いているのです。
科学的なことは、一見は複雑に見えます。
しかし、実はとても系統的にシンプルにまとまっています。
全く目に見えないミクロの世界で、これだけの反応が起こっているのは面白いですよね。
パン作りも色々な視点で見ていくと、とても深く学ぶことができるなぁ。
そんな風に思います。
こんな難しいことがわからなくてもパンが美味しく作れれば良いでしょ!という風にも思います。
しかし、いざ砂糖不使用のパンを焼いてみると、美味しいパンを焼きあげるのが難しいということに気が付きます。
それはなぜでしょうか?
砂糖不使用のパンではイーストの栄養源を供給するのは小麦粉のデンプンです。
糖分はパンの焼き色や柔らかさ、膨らみを持たせるのにすごく重要な役割をしているのです。
砂糖を材料として配合すれば、砂糖を原料に安定してイーストが発酵活動を行ってくれます。
焼き色も付き、ボリュームもでやすいですし、甘味もつきます。
でもその砂糖はありません。
ではどうやって上手く膨らませる?
工夫が必要ですよね。ハード系も奥が深いのです。
本当にマニアックな内容でしたか(笑)
でも、もっと色々知りたくなったのではないでしょうか。
砂糖の役割についてはこちらのブログに詳しく記載しています。
【パンの材料Q&A】砂糖入りのパンがふわふわ柔らかい理由は?/パン作りの砂糖の役割を詳しく解説します
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参考資料
科学でわかるパンの「なぜ?」
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム