パン作りの『パンチ』未経験の方へ。
その効果とは何か?実際の検証結果と共に解説していきます。
パン作りの中で『パンチ』という工程を行ったことがあるでしょうか?
まず私の経験をお話しますね。
私が最初に通い始めたパン教室では『パンチ』の工程は全く行いませんでした。
ですから、その当時の私は自宅でパン作りを行うときも『パンチ』をしません。
でも、パンは美味しく焼きあがっていました。
これは確かです。
そして、次に通い始めたパン教室では『パンチ』を行っていました。
厳密に言うと、作りたいパンの味や食感に応じて
パンチの工程を入れるか入れないかを使い分けていたのです。
これは、その時の私には軽い衝撃です。
そんな考え方があるのか、、面白い!となった訳ですね(笑)
そのような過去の経験もあり、今の私もレシピに応じて『パンチ』の有無を使い分けています。
なぜか?
それは、パンチの有無でパンの仕上がりにかなりの差が出てくるからです。
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このブログでは以下の内容について、分かりやすくお話していきたいと思います。
◎パンチはパン作りの工程の中でいつ行うのか?
◎パンチを行う意味は?
◎パンチの有無で食パンの仕上がりに差はあるのか検証!
発酵の途中で行う『パンチ』とは?
『パンチ、パンチ、、』と先ほどから何回も言っていますが、
ばんばんとパン生地をパンチする工程ではありません。
別の言い方を調べると、『ガス抜き』という言葉で表している方もいるようですね。
パンチというのは、一次発酵の途中で行います。
図1にパン作りのストレート法の工程を示しました。
よく見ていただくと、パンチが有無で2通りの方法があることが分かりますね。
ストレート法についてはこちらのブログに詳しく記載しています(^^)良かったら参考にしてくださいね。
【豆知識】パン作りのストレート法とは?メリット/デメリットを詳しく解説
![](https://atelier-epice.net/wp-content/uploads/2022/09/image-6-1280x444.png)
発酵させて膨らんだパン生地を、一旦取り出して均一に潰し、再び発酵させる工程を言います。
『潰す』というと力強く行うイメージですが、
実際には折りたたんだり、手のひらで押さえたり、丸め直したりします。
発酵させて柔らかくなったパン生地は非常にデリケートです。
パン生地を傷めないように、最大限注意いえて行う必要があるのです。
【パンチの意味①】気泡を均一にしてきめ細かいパン生地を作る
ここからは、パンチを行う意味について考えていきたいと思います。
捏ねたパン生地を一次発酵させると、イーストのアルコール発酵によって炭酸ガスが発生します。
この炭酸ガスがパン生地を膨らませるもとになるわけです。
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上の写真は一次発酵を適正に終えたパン生地です。
何となくポコポコと大きい気泡が内部にあるのが、触ってみるとよく分かります。
『パンチ』の工程では、この大きい気泡を一旦潰してしまいます。
そして、再び発酵させることによって、小さい気泡を多く作りだしていくのです。
どれくらいきめ細かくなるかについては、実際に検証のところで写真と共にお話していきますね。
【パンチの意味②】パン生地中のアルコールを追い出してイーストを元気にする
アルコールを追い出すとイーストが元気になる??と疑問に思ったあなたへ。
私も同じ疑問を持ちましたよ。
なぜなら、アルコールを産生しているのはイースト自身のはず。
自分で作り出している物で、自分を痛めつけているってどういう事?
と疑問に思うのも当然だと思います。
実際にパン生地中のアルコール濃度が高くなると、イーストの細胞組織が壊れやすくなるそうです。
もともと、ワインの酵母などの酒造のための酵母も、
パン酵母と同じく『サッカロミセス・セレヴィシエ種』という種の細菌に分類されます。
この種の酵母の中に、様々な得意分野を持つ子がいて、パン作りに使われたりお酒作りに使われたりしているのです。
酒造の酵母はアルコールには強いものが選ばれるそうですが、パン酵母はそうではないという事のようです。
パン作りをするのは得意だけど、アルコールにはめっぽう弱いイーストなのですね。
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さて、パンチをするとなぜパン生地中のアルコール濃度が下がるのかというところまで深堀していきましょう。
イーストのアルコール発酵によってできるのは『エタノール』です。
エタノールというのは、消毒液の主成分(*消毒液でもエタノールが成分でないものもあります)です。
消毒液をシュッとスプレーで吹きかけると、あっという間に気体になってなくなってしまいますね。
エタノールという成分は、常温でも気化しやすい性質があります。
そして、エタノールは水にもよく溶けます。
お酒をイメージすればよくわかりますね。アルコール度数の多いお酒は水割りしますので。
つまり、パン生地の中でもイーストが発生したアルコール(エタノール)は気体として存在しているものと水に溶けた状態で存在しているものがあります。
一次発酵でパン生地中に溜まったエタノールですが、
『パンチ』を行うと気体として存在していたものは外気に抜け出てしまいます。
そして、水に溶けていたエタノールもパン生地全体に分散していくのです。
このようにパンチを行うことで、パン生地中のエタノール濃度を低くします。
結果として、イーストは再び発酵活動に元気一杯取り組んでくれるという事になります。
【パンチの意味③】発酵時間を長くして、パン生地をしっとりさせる
発酵時間を長くする事で何か良いことがあるの?と疑問に思いますよね。
パンの発酵時間では、単にイーストが炭酸ガスをだしてパンを膨らませているわけではないのです。
長時間発酵がなぜ良いのか?という味方で考えていきましょう。
一つ目の理由として、パン生地の『水和』が進むというものがあります。
パン作りでいう水和というのは、小麦粉の芯のところまで水分が染み込んでいくというイメージがわかりやすいと思います。
水和が進むとしっかりと小麦粉内の分子と水分子が結び付きます。
すると、オーブンで焼いても、パン生地中に多くの水分が残ります。
結果として『しっとり』としたパンが焼きあがるのです。
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短時間で完成させるパンは、翌日には固くなってしまうという経験をお持ちの方も多いと思います。
水和が十分に行われるためには、ある程度の時間が必要なのです。
じっくりと長い時間発酵させたパンが美味しいと感じる理由のひとつには『水和』が関係しています。
水和についてはこちらのブログ記事で詳しくお話しています♪
【パン作りの豆知識】水和とは?パン生地のしっとり感が長持ちする!
長時間発酵のパンが良いと言われる理由のふたつ目は、
旨みや香りの生みだす物質が発酵中にパン生地に蓄積されることがあります。
ちょっと難しいように感じますが、皆さんの経験とリンクすると思いますので面白いお話ですよ。
まず、イーストのアルコール発酵では、その名の通りに『アルコール』が発生します。
アルコールはパン特有の香りのもとになります。
『アルコール臭』と嫌われる印象がありますが、程よいアルコール感は何とも良い香りなのですね。
また、パン生地中にはイースト以外の細菌も生きています。
この地球上には無数の菌が浮遊しています。
パンの材料や空気中からも、パン生地中に乳酸菌や酢酸菌などが入り込んでいるのです。
それらの細菌も発酵を行います。
酢酸菌⇒酢酸発酵
乳酸菌⇒乳酸発酵
これらの発酵活動によって生み出される物質は、パンの香りをより複雑にします。
更に、小麦粉のデンプンが分解されて糖分に分解されたり、タンパク質がアミノ酸に分解されて旨みが増していきます。
長時間発酵についてパンが熟成されるという表現がされますが、
これらパンの風味や旨みの成分が増していくことを考えると納得出来ると思います。
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さて、パンチの工程と『長時間発酵』にはどのような関係があるのでしょうか?
前章でもお話しましたが、発酵が進みすぎるとイーストの活性は弱くなります。
一旦パンチを行うことで、パン生地中のアルコールを分散させてイーストに再び元気一杯に発酵してもらうことができるのです。
また、過発酵になるとパン生地は過度に柔らかくなって、修復できないほどに傷んでしまいます。パンチを入れてパン生地に刺激を加えると、グルテンが再び緊張して発酵して膨らむだけの力強い生地になります。
【パンチの意味④】グルテン骨格を強くして、パンのボリュームが大きくする
小麦粉でパンを作る時の主役である『グルテン』の登場です。
パン作りの各工程は、グルテンが緊張することでパンがプリっと固くなったり、
グルテンが緩んで柔らかくよく伸びるパン生地になったりと段階的に変化していきます。
それぞれの工程を考えると、パン生地に力を加える工程と
パン生地を休ませる工程が交互に進んでいくのが分かります(図2)。
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例えば、パン生地を捏ねるというのは『力を加える』工程になります。
捏ね上げたパン生地はプリっと弾力がある様子がイメージできるでしょうか。
そして、発酵させるというのはパン生地を『休ませる』工程です。
人間は何もしません。でも、パン生地は膨らんで柔らかくなります。
なぜ、このようにパン生地が変化していくかを考えるとき、
『グルテン』に注目するととてもわかりやすく理解することができます。
そもそもグルテンとは何なのでしょうか?
グルテンを作りだすもとになるのは小麦粉です。
小麦粉と水を混ぜて、捏ねることでグルテンの生成が進んでいきます(図3)。
『捏ねる』というのは『力を加える』事ですね。
パン作りでいうと、最初に行う『捏ね』の工程に注目しがちですが、
『力を加える』という視点で考えると、パンチや分割、成形も力を加える工程になります。
力を加えることで、グルテンの生成が促進させる訳なので、
『パンチ』の工程を行うことでグルテンが強化されて網目構造が密になります。
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パンが膨らむというのをゴム風船に置き換えてみましょう。
ゴム風船のゴムの部分がグルテンです。
イーストが発酵で発生する炭酸ガスをしっかりと包こんで、
ぷわーっと大きく膨らむことができます。
しかし、ゴム風船のゴムの部分が弱く脆いとすぐに割れてしまいますね。
グルテンは網目のようにパン生地全体に広がっていますが、
網目がスカスカになっていると、空気を包むことができません。
つまり、大きく膨らませてボリュームのあるパンを作りたい場合は、
グルテンの網目構造が密になっている、強いグルテンを作ることが必要なのです。
そして、グルテンの強化に一役買うのが『パンチ』の工程です。
『パンチで繋げる』というカッコイイ響きの言葉を聞いたことがあるでしょうか。
捏ねないパンなどを作る時に、パンを発酵させて休ませる途中でパンチを数回行う場合があります。
捏ねないのですから、パンを膨らませるためのグルテンができないのでは?と思いますよね。
途中に『パンチ』という工程を入れることで、グルテンが強化されていくのです。
もちろん、しっかり捏ねたパン生地とは全く違う仕上がりの食感のパンになります。
味方を変えれば、全く違う美味しさのパンを作ることができるということですね。
捏ねないパンについてはこちらのブログで検証していますのでぜひ参考にしてくださいね。【パン作りの豆知識】捏ねないパンのなぜ?グルテンが出来る仕組みを考える!
【検証】食パン作りにパンチを行う効果はあるのか?
パンチの工程を行う代表的なパンが食パンです。
食パン型に入れて大きく膨らませたいとしてレシピ作りをする場合が多いからだと思います。
パンチを行うことでグルテンが強化されるので、ぐんと釜伸びも良くなるだろうという想像もつきます。
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上の写真は、全く同じ配合のレシピで食パンを焼いたものです。
最終発酵も型に対して、同じ高さまで発酵させて同じ温度のオーブンで焼きました。
『パンチあり』の食パンの方が、縦に大きく膨らんでいるのがわかると思います。
そして、こちらもとても興味深いのです。
パンチの意味①のところで、パン生地中の気泡を均一化してきめ細かい内相(クラム)のパンを作るというお話をしました。
その通りの結果の断面となりましたので、写真で比較してみましょう。
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パンチありの食パンの内相の方が、気泡がきめ細かくて縦に伸びている様子がわかりますね。
食べてみても、しっとりと引きが強い感じがよくわかりました。
同じ配合で焼いていますが、食感はかなり違うものになりました。
でも、パンチなしの食パンも美味しいですよ。
どちらが好きかは好みの問題になってくると思います。
◎まとめ◎半信半疑に思うなら一度試して欲しい!『パンチ』の効果は絶大
結論から言うと、パンチを行わなくてもパンを作ることはできます。
でも、今までパン職人さんが何千年と経験を積み重ねて
残してきた工程のひとつが『パンチ』です。
意味や効果がないはずはありませんよね。
やる意味がないなら、わざわざ手間をかけて行う必要はありません。
冒頭でもお話しましたが、私は作りたいパンの食感に応じてパンチの有無を使い分けています。
今までのパン作りの経験でも、パンの仕上がりそのものに『パンチ』の工程は影響してくると思います。
まだ一度も試したことのない方は、パンチの工程があるレシピは難しそうと躊躇するかもしれませんね。
でも、試しにやってみてください!
本当に仕上がりに差がでるはずですよ(^^)
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参考資料
科学でわかるパンの「なぜ?」
NEW 科学と理論 第二版
パン作りのメカニズムとアルゴリズム
パンづくりに困ったら読む本
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