冷蔵発酵(長時間低温発酵)のメリットとは?手作りパンが翌日も極上しっとり!

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冷蔵発酵というパン作りの製法を聞いたことがありますか?

オーバーナイト法、長時間低温発酵法などと呼ばれることもあります。

なんだか難しそう。失敗しそうで挑戦できない。

私も、まだパン作りの経験が浅い時にはそのように思っていました。

ふゆき
ふゆき

私がこの冷蔵発酵(低温長時間発酵)に取り組むキッカケになったのは、
子供が生まれた事です。

赤ちゃんのお世話をしていると、パンを焼く時間がない(゚ロ゚)
でも、短時間で作るパンに切り替えるのは私のポリシーが許せない。

そんな思いで、冷蔵発酵のパン作りに試行錯誤を繰り返していきました。

冷蔵発酵を行うことで、パン作りの作業を2日間に分けて行うことができます。
そのため、子育てをしながらパン作りを行うには最適の方法だったのです。

それから、冷蔵発酵が私のパン作りのスタイルになっていきました。

そして、パンを食べてくれる友人達の反応が少し変わってきたことに気がついたのです。

『すごくしっとりしてる。何でこんなにもちもちしてるの?』

数時間で完成するストレート法のパン作りよりも、パンがしっとり焼きあがっている。
という事を、私自身も周りの友人も明らかに実感していたのです。

ふゆき
ふゆき

このブログでは、冷蔵発酵(長時間冷蔵発酵)でパンがしっとり味わい深くなる理由について、深ーく掘り下げて分かりやすく解説していきたいと思います。

皆さんが低温長時間発酵にチャレンジするためのキッカケとなれば嬉しく思います。

冷蔵発酵(低温長時間発酵)とは?

冷蔵発酵や低温長時間発酵、オーバーナイト法と呼ばれる事もあります。
他の呼び名をされている方もいます。

ふゆき
ふゆき

それぞれの言葉で、微妙なニュアンスの違いはあると思いますが、
家庭でパン作りをする範囲では、ほとんど同じ意味で使われていると考えています。

低温長時間発酵はその名の通りに、
低い温度帯で長い時間をかけて発酵を行うパン作りの事です。

パン作りの『発酵』というのは、捏ねて後に行う一次発酵と焼成前に行う最終発酵があります(図1)。
そのどちらの発酵でも、低温で長時間かけて行う場合があります。

図1

私は一次発酵で冷蔵庫を使い、12~24時間の長時間の発酵をさせています。
最終発酵は35℃の発酵器で約1時間~1時間半です。

イーストの量やパンの配合によっても、発酵時間は違ってきますね。

低温長時間発酵で有名なのは、パン屋さんだと『シニフィアンシニフィエ』の志賀勝栄シェフですね。

パン作りの知識もとても深く、本も多数出されています。
私も志賀シェフの本で、製パンの理論について勉強させて頂いています。
シニフィアンシニフィエ⇒ https://signifiantsignifie.com/

『パンの世界 基本から最前線まで』 著:志賀 勝栄

こちらの本は、低温長時間発酵やパンの歴史、理論まで深く解説されていて、とても勉強になります。よかったら参考にしてくださいね(*^_^*)

低温長時間発酵は、その味わいの深さでも注目されています。
パン生地の奥の方に、発酵の良い香りがするイメージです。

バターや乳製品のように濃い風味ではないですが、
その発酵の風味があるのとないのでは、パンの格式が変わります。


一方で、もともとはフランスのブーランジェリーでの労働時間の改善のために行われた側面もあります。

早朝から長い時間働くパン職人さんの労働時間を、
2日に分ける目的で生み出された製法でもあるのです。

下の写真は、一度は絶対に訪れたいと思っていたパリ。
フランス旅行に出かけたときのブーランジェリーです。
パリで食べるバケットやクロワッサンの美味しかった事、、値段も信じられないほど安くて驚きました~

話を元に戻しますね(^^)

低い温度での発酵というのは一体何℃なのか?というのも気になるところですよね。

これは一概に決まりはないようなのです。

一般的にストレート法でパン作りを行う場合の発酵温度は30℃前後で、
その温度よりは低い温度帯というのは間違いないです。

パン屋さんでは、厳密に温度と湿度を管理できるの機械があります。
そのため、『発酵温度17℃、湿度〇〇%』など1℃単位で絶妙な温度調整ができます。

しかし!

家庭のパン作りではそうはいきませんね(^_^;)
日本の季節は温度も湿度もバラバラです。

夏はエアコンを効かせても室温が27℃以上になる事もありますし、
冬場は東京でも室温が10℃以下になる事もしばしば。

ふゆき
ふゆき

家の中で一定の温度を保ち、発酵できるのはどこ?と探してみると、
『冷蔵庫』という答えがでてくるわけなのです。

そのような経緯もあって、冷蔵発酵という言葉も一般的に根付いているのではないかと思います。

わかりやすいという理由で、私も『冷蔵発酵』と呼ぶことが多いです。
以下『冷蔵発酵』という言葉でお話していきたと思います。

また、作業を2日間に分けて行う事から、
一晩かけるパン作りということで『オーバーナイト』という呼び方がされるのも理解できますね。

【冷蔵発酵のメリット①】翌日のパンがしっとり長持ちする

冷蔵発酵で長時間かけて発酵を行うパンは、とても水々しくしっとり。

ふゆき
ふゆき

同じ配合であれば、時間をかけて作るパンの方がパン生地の保湿効果は高くなります。

その理由はきちんとあります!

答えを、一言でいうと水和』という現象です。

何それ?と思った方も多いと思います。

小麦粉は、ひと粒ひと粒がとても細かい粒子状になっています。
大きさはバラバラですが、お米と同じように水が中心部まで浸透していくには時間がかかるのです。

お米を炊く前に、お水につけておくとご飯がふっくらと炊き上がりますよね。
そのようなイメージで、小麦の芯の部分までお水を含んだパンはしっとり焼きあがります。

もう少し掘り下げて考えていきましょう。

化学でいう『水和』というのは、溶質の分子やイオンが水分子を引きつけて結合する事を言います。

パン作りに置き換えてみると、
【溶質】というのが小麦粉のタンパク質や砂糖、塩などの水に溶けやすいものという事になります。

図2

図2に、パン生地の中で小麦粉のタンパク質と水分子が結合している様子を示しました。

食品中の水がどう動くのかを考える時、
『自由水』と『結合水』という見方をすることがあります。

◎自由水
通常の水と同じように、自由に動き回ることができる。
0℃で氷り、100℃で沸騰する。

◎結合水
他の分子と結合しているため、自由に動き回ることができない。
パン生地の小麦タンパクや砂糖などと結びついた結合水は、
オーブンで加熱されても蒸発せずにパン生地の中に留まる。

パン生地の『水和』が進むと、小麦タンパクなどと結びついた結合水の数が増えます。
すると、パン生地の保湿効果が高まり、しっとりしたパン生地に仕上がるのです。

また、この水和の効果は焼成後に時間が経っても持続します。
つまり、しっかりと水和が進んだパンは翌日も2日後もしっとり感を保つことができるのです。

ふゆき
ふゆき

そして、水和には時間が必要です。

短時間で作るパンが、早く固くなりやすいのは水和が不十分であることも理由のひとつです。

イーストだけでなく、自家製酵母などの発酵種で作るパンや中種法で作るパンがしっとり仕上がる理由にも『水和』という現象が深く関わっているのです。

水和についてはこちらのブログで詳しく解説しています。良かったら参考にしてくださいね(^^)
【パン作りの豆知識】水和とは?パン生地のしっとり感が長持ちする!

【冷蔵発酵のメリット②】発酵がうみだす芳醇な香り~アルコール・乳酸・酢酸~

いよいよ『発酵活動』そのものに着目していきますよ!

パンを膨らませる炭酸ガスをだすのは、
パン酵母(イースト)です。
パン作りで登場する細菌の中では主役になりますね。

イーストはブドウ糖などの単糖類を原料にして、炭酸ガスとアルコールを発生します。
これをアルコール発酵と言います。

◎イーストのアルコール発酵
ブドウ糖⇒【酵素:チマーゼ】⇒炭酸ガス+アルコール

さて、実はパン生地の中に住んでいる細菌はイーストだけではありません。

ふゆき
ふゆき

パン生地の中には材料や空気中から未知数の細菌が入り込んでいるのです!

ミクロの世界のことで、目には見えないのでイメージしにくいかもしれませんね。

そして、このたくさんの細菌の中で酢酸菌や乳酸菌は発酵活動を行い、
有機酸(乳酸、酢酸)を発生します。

乳酸菌、酢酸菌⇒有機酸(乳酸、酢酸など)

これらの様々な細菌によって作られるアルコールや有機酸(乳酸、酢酸など)は、
パン特有の風味や奥深い味わいを生みだすのです。

アルコール臭というと、過発酵の嫌な臭いのイメージがあるかもしれませんね。

しかし、程よいお酒の香りはうっとりするような魅力がありますよね。
様々なフレーバーが醸し出す芳醇な味わいは、発酵を利用して作るパンならではの魅力なのです。

これらの乳酸菌や酢酸菌による発酵活動で生み出される有機酸の香りは、
発酵に長い時間をかける方が色濃く、パンの風味となって残ります。

ふゆき
ふゆき

そのため、低温で長時間の発酵を行うパンの風味はより芳醇なものになるのですね!

【冷蔵発酵のメリット③】小麦の甘味と旨みを引き出す酵素の働き

小麦の美味しさを引き出す!と言われても、よく分からないですよね。

ふゆき
ふゆき

一見難しそうですが、生活の中のものでイメージできます。
分かりやすくお話していこうと思いますので、安心してくださいね。

甘い味がするものとして、すぐに思いつくのはやはり『砂糖などの糖分』でしょうか。

小麦は米などと同じ炭水化物に分類されます。
そして、小麦や米の主成分はデンプンです。

デンプンの構造に注目してみると、たくさんのブドウ糖が連なっているという事が分かります(図3)。

図3

デンプンをより細かく見ていくと、ふたつの種類があります。

◎アミロース→直鎖状にブドウ糖が連なっている。
◎アミロペクチン→分かれしている。

これは余談ですが、お米のもち米とうるち米は食感が全く違いますよね。
うるち米にはアミロースが含まれていますが、もち米のデンプンはアミロペクチン100%です。
アミロースとアミロペクチンの割合が違いは、私達の食生活の中でも身近なものですね。

小麦に含まれるデンプンは、同じく小麦に存在する酵素のアミラーゼによって分解されて、
麦芽糖などの糖を作り出します。

*デンプン⇒【酵素:アミラーゼ】⇒麦芽糖

麦芽糖というのは、ブドウ糖2つが手を繋いだ構造をしています。
2つの糖なので、二糖類に分類される糖のひとつです。

さて、さらさら~と説明してきましたが、ちょっと難しいですね。
ただ、この反応はパン作りでもとっても重要です。

なぜなら、前述のようにイーストの栄養源はブドウ糖です。
材料に砂糖を含まないバケットなどのパン作りでは、
そもそもブドウ糖がない?ということになります。


無糖のパンの場合、イーストに糖類を供給していくのは小麦デンプンなのです。

麦芽糖はイーストが持つ酵素であるマルターゼによって分解されてブドウ糖となります。
そして、イーストに発酵の原料のブドウ糖を送り出します。

麦芽糖⇒【酵素:マルターゼ】⇒ブドウ糖・・・イーストの発酵活動の栄養源

その全体図を示したのが図4です。

図4

このように、砂糖を材料に含まないパンでは、
イーストの栄養源であるブドウ糖を生み出すまでに2ステップが必要です。

バケットなどのハード系のパン作りで、発酵時間が長くなる理由のひとつには
これらの酵素による段階的な反応が関わっているからなのですね。

さて、冷蔵発酵では長い時間をかけて発酵させます。

ふゆき
ふゆき

『長時間』の発酵時間のあいだに、小麦デンプンがどんどん『糖』に変わっていきます!

小麦の甘味が引き出されるという現象は、
このようなミクロの世界でのダイナミックな反応が関係しています。

よく耳にする、低温熟成のさつまいもで作る『あまーい焼き芋』。
これは収穫後に寝かせて置くことでデンプンが糖に変化するという現象を利用していると考えられますね。


私が実家にいた頃は、『夏に収穫するかぼちゃは寝かせると美味しくなるから、秋が美味しいよ』と当たり前のように祖母に言われていました。
昔はこのような酵素反応は解明されていないでしょうから、
先人達の生活の知恵というのは尊敬すべきものがありますよね。

さて、もうひとつの『旨み』について考えていきましょう。

うまみ調味料というとイメージできますか?
旨みを感じる代表選手はアミノ酸です。

ふゆき
ふゆき

『熟成肉や長期間熟成されたチーズの旨み』もアミノ酸が関係しています。
アミノ酸がもたらす『旨み』は、意外と身近に隠れているものですよ。

では、さらに深堀りしていきましょう!
アミノ酸が連なってできているのが『タンパク質』です(図5)。

タンパク質分解酵素のプロテアーゼが働くと、アミノ酸同士の繋がりが切れて、
ひとつひとつのアミノ酸(遊離アミノ酸)に分解されていきます。

図5

パンの材料の小麦に目を向けていきましょう。

小麦のタンパク質というと、すぐに思いつくのは『グルテン』ですね。
グルテンはパンの骨格を作り、パンが膨らむための主役です。

グルテンがプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)に分解されたら困るじゃないか!と思いますが、
実際には小麦由来のプロテアーゼによってグルテンに大きく影響を与えることはないようです(*1)。

そして短時間で作られるパンよりも、低温長時間の発酵で作られるパンの方が多くのアミノ酸が含まれていることが報告されています(*2)

ふゆき
ふゆき

長時間発酵させることで、旨みのもとのアミノ酸がたくさん含まれたパンになる!
ということですね。

この文献では、中種法での低温長時間発酵(4~10℃)で検証を行っていますが、ストレート法**でも同じように考えられるだろうと私は考えています。

**ストレート法についてはこちらのブログに詳しく記載しています。
【豆知識】パン作りのストレート法とは?メリット/デメリットを詳しく解説

(*1) 藤本章人,井藤隆之,井村聡明:伝統的パン種のおいしさと微生物の関わりについてhttps://cir.nii.ac.jp/crid/1520572358112999936 (国立情報学研究所よりリンク)
(*2)光 永 俊 郎:小 麦 の プ ロ テ ア ー ゼ に つ い て

パン生地中に増えたアミノ酸はパンの旨みとなります。

そして、もうひとつ。
アミノ酸と糖が関わる反応としてメイラード反応というものがあります。

メイラード反応にはアミノ酸と還元糖という糖が必要で、
パンに美しい焼き色と香ばしい香りを与える美味しさの要となる反応
です。

パンが焼ける時の、ワクワクするあの香りを作っているのはアミノ酸と糖なのです。

ふゆき
ふゆき

冷蔵発酵で長時間熟成すると、アミノ酸と糖類(麦芽糖など)が増えます。
メイラード反応もパンのおいしさを格段にアップさせるポイントですね!

糖とアミノ酸。
パンの風味の向上に貢献しているのですね。

メイラード反応についてはこちらのブログで詳しくお話しています。ぜひ参考にしてくださいね(^^)
【パンの材料Q&A】砂糖入りのパンがふわふわ柔らかい理由は?/パン作りの砂糖の役割を詳しく解説します

さて、ここで視点をイーストの発酵活動へ移していきます。

すでにお話していますが、
イーストのアルコール発酵の栄養現はブドウ糖や果糖などの単糖類です。

また、アミノ酸は窒素源としてイーストの栄養となります。

今までの内容をまとめてみます。

デンプン⇒【酵素:アミラーゼ】⇒麦芽糖・・・小麦の甘味
タンパク質⇒【酵素:プロテアーゼ】⇒アミノ酸・・・小麦の旨み

一方で、糖とアミノ酸はイーストの栄養現として消費される。

ふゆき
ふゆき

つまり、糖とアミノ酸の供給と消費のバランスが、
消費に傾いてしまうと、
甘味も旨みも弱まってしまうということになりますね。

イースト量が多すぎたり、発酵が進みすぎて過発酵のパン生地になった場合に、
味のない旨み不足のパンができあがってしまう
という事になります。

30℃前後で発酵条件でも、低温長時間の発酵であっても
イースト量と発酵温度、発酵時間のバランスが保たれているからこそ、
ふっくらとボリュームのあるパンが焼きあがります。

適度に熟成されたパンの香りは魅力的ですが、
過度に熟成されたパンは必ずしも良いものではない。

ふゆき
ふゆき

過発酵のパンって、砂糖をいれても甘くない。
味気がなくて、本当に残念なパンになってしまいます。

【冷蔵発酵のメリット④】柔軟でしなやかに伸びるグルテンを作る/パン生地のpH低下と酸化

今回のブログの内容の中では、最も科学的な内容になるところに入ります。
私もこの項目を理解するのに、いくつの資料を見たことか、、、(笑)

ただ、理解してしまうと、パンのグルテンに関わる内容が一本の線で繋がっていきます。
できる限り分かりやすくお話していきますので、良かったらお付き合いくださいね(^^)

まず、パン生地のpHの低下について考えていきたいと思います。

基本事項からおさらいしましょう!
pH(ペーハーやピーエイチと読んだりします。)は酸性やアルカリ性(塩基性)を示す数値です。
pHの数字が小さいほど酸性になります。例えば、レモン汁やお酢はpHが小さく、酸性を示し酸っぱい味がします。

実は、発酵で生み出される物質の中には、パン生地のpHを低下させるものがあります。

つまり、発酵中にパン生地はどんどん酸性に変わっていくということです。

【冷蔵発酵のメリット②】のところでもお話しましたが、
パン生地中にはイーストの他に、空気中や材料から酢酸菌や乳酸菌などの細菌が入り込んでいます

そこで産生した有機酸(乳酸、酢酸など)は、パン生地を酸性(pH低下)にします。

ふゆき
ふゆき

発酵時間が長くなるほど、パン生地は酸性に変わっていくわけですね。

冷蔵発酵で長時間発酵させたパン生地は、短時間で発酵させたパン生地よりも
pHが低くなるということが考えられるのです。

pHが低くなると、パン生地に様々な影響があります。
①イーストのアルコール発酵の活性化する
②グルテンが柔らかく、伸びやすくなる
③pH4.2~4.3を下回ると不要な雑菌の繁殖を抑え、パンの保存性が増す

まず、①イーストのアルコール発酵を活性化するという項目についてお話していきます。

イーストが活発にアルコール発酵を行うのはpH4.5~5.5位の範囲です。

ふゆき
ふゆき

pH7が中性なので、イーストは酸性の中にいた方が元気に発酵してくれます。

次に②のグルテンに対する作用です。

捏ね上げた直後のパン生地というのはプリっと弾力がありますが、
発酵させたパン生地はとても柔らかく、弾力が弱くなっていきます。

パン作りをされている方にとっては、肌感覚として知っていることだと思います。
これにもpHの低下や発酵で生じる物質が関わっているのです。

発酵で生じる有機酸(乳酸、酢酸など)によってパン生地のpHが低下します。
すると、グルテンの構造がゆるんでパン生地が柔らかくなります。

更にイーストの発行活動で作られるアルコールも、パン生地を柔らかくするのに一役買っています(図6)。

図6 グルテンの模式図

③のpHの低下が雑菌の繁殖を防ぐというのは、
『食品の日持ちを良くするためにお酢を入れる』事と同じ考え方になります。

日常生活の知恵としても実践されている方も多いのではないでしょうか。
焼きあがったパン生地のpHが低くなると、カビに強く日持ちの良いパンになるのです。

へぇ~という気持ちになりますが、身近な例から納得はできますし面白いですよね(^^)

pHの低下についてのお話はここまでにして、『パン生地の酸化』とは何かを解説していきますね。

はじめに言ってしまうと、ここは少し難しい内容になります。
私も日々、文献や本などで知識をアップデートしているところです。
丁寧にお話していきますので、お読み頂ければ幸いです。

さて、皆さんは捏ねないパンやへら捏ねのパンを作ったことがあるでしょうか?

これらのパン作りの最大のポイントは『パン生地を長時間寝かせること』なのです。

写真で見ていただく方がわかりやすいと思います。

【A】捏ね直後
【B】1時間後

ボールの中に入れた材料をヘラで均一に混ぜたものが左側【A】の写真です。

そのパン生地を1時間置いたものが右側【B】の写真です。
見た目でも、全く違う生地に変化したことがわかります。

【B】の1時間寝かせたパン生地は艶っぽく光沢があります。
へらで伸ばすと、ビヨーンと繋がりがありよく伸びる生地に変わりました。

私は何もしていません。ただ寝かせただけ。
それなのに、これほどの変化が起こってしまうのです。

この謎はグルテンの構造に注目する事で理解することができます。

図7 グルテンの模式図②

図7にグルテンの模式図を示しました。
青い棒線が一本のグルテンを表しています。

パン生地の材料を混ぜた後すぐのグルテンは、一方向のみに並んでいますが、
1時間寝かせた後のグルテンは、1本1本のグルテンの間に赤色の線で繋がりが出来ていきます。

この現象は『SH基とSーS結合の交換反応』と呼ばれ、
グルテン分子間に新たなジスルフィド結合(-S-S-)を作ります。

この交換反応によって、グルテンの網目構造はより細かい複雑なものに変化していきます。

図7の赤線は新たにできたジスルフィド結合(-S-S-)を表しています。

捏ねないパン作りでは、へらでパンチを行うことでパン生地に物理的な力を加えていきます。

『寝かせる』プラス『パンチ』という工程を繰り返すことで、
グルテンの網目構造を複雑なものに変化させていく製法なのです。

図8

図8を見ていただくと、グルテンタンパク質がジスルフィド結合(-S-S-)によって、
折りたたまれて絡み合っていく様子がイメージしやすくなると思います。

ここからは私も理解するのに時間がかかったところなので、あえて詳しくお話したいと思います。

パンを捏ねる(力を加える)工程では、グルテンの生成とともに
ひとつのグルテンタンパク質の中でジスルフィド結合(-S-S-)が作られて、折り畳まれていきます(図8:3次構造)。
図7で見ると、青い線で表した一本のグルテンのことです。

一方、発酵の過程でパン生地を寝かせることで形成されるジスルフィド結合(-S-S-)は、
複数のグルテン分子が絡み合う、より複雑な4次構造に変化する事を指しています(図8:4次構造)。

グルテンタンパク質が4次構造に変化する段階で、網目構造はパン生地全体へ広がっていき、キメ細かいグルテン膜を形成していくのです。

そのため、捏ねた後に適度に寝かせたパン生地は、薄くのばしても切れない『しなやかさ』を持つ事になります。

発酵したパン生地をイメージしていただけると分かりやすいと思います。
発酵が適正な状態のパン生地はとても柔らかいですが、張りがあってゴムのようによく伸びます。

弾力が強すぎて伸ばすことができないゴム(発酵不足)や、
ビヨビヨに伸びきってすぐに切れてしまうようなゴム(過発酵)ではありません。

ただ柔らかいだけでも強いだけもない、
しなやかなパン生地を生みだすのが『SH基とSーS結合の交換反応』という現象なのです。

これを『パン生地の酸化』という言葉で表していますが、正直わかりにくいですよね(;^ω^)

高校生?の化学を思い出してみましょう!

【酸化還元反応】というものですが、うっすらと記憶にあるでしょうか。

酸化というのは水素を失う反応です。
(-SH基)が水素を失って(-S-S-結合)を作るという事から、酸化反応という事になるわけです。

この章の内容をまとめると下記のようになります。
◎パン生地のpHの低下⇒グルテンが柔らかく、伸びやすくなる
◎パン生地の酸化⇒グルテンの網目構造が複雑に絡み合い、しなやかに伸びるきめ細かいグルテン膜を作る


これらのグルテンに及ぼす影響によって『柔軟でしなやかに伸びるパン生地』を作ることができます。

弾力と柔軟性を備えたグルテン膜は、ボリュームのあるパンを作るために必要になるのですね。

そして、長時間の発酵でじっくりとパン生地を熟成する事で、
適度なバランスをとりながらこれらのグルテンの変化が進んでいきます。

これは私の実体験で感じていることなのですが、
短時間で一気に発酵させた生地というのは、少し過発酵かな?という位でもパン生地の傷み具合がとても激しいです。

一方で、冷蔵庫でじっくりゆっくり発酵させた場合は、少し様子が違います。
少し適正の発酵を過ぎた位では、短時間で発酵させたパン生地よりもパン『生地が傷む』という印象はありません。

短時間で一気に発酵させた場合、パン生地のpHの低下や酸化があまり進んでいません。
そのため、パンの柔軟性が不十分な状態で無理に引き伸ばされる事になります。

つまり、パン生地の柔らかさと弾力のバランスが崩れてしまっている状態となり、パン生地が傷んで膨らみが悪くなるという結果となる事が考えられるのです。

捏ねないパンや過発酵については、こちらのブログにも詳しい解説をしています(^^)
【パン作りの豆知識】捏ねないパンのなぜ?グルテンが出来る仕組みを考える!
【検証】一次発酵で過発酵になったパンを焼いてみると、、、/過発酵について詳しく解説!

◎まとめ◎奥深い味と水々しい食感が最大の魅力!自信を持っておすすめできる冷蔵発酵(長時間低温発酵)のパン作り

冷蔵発酵(長時間低温発酵)のパン作りのメリットについて下記にまとめたいと思います。

◎パンのしっとり感が長持ちする・・・水和
◎芳醇で複雑な風味と香り・・・発酵で生じるアルコール・乳酸・酢酸
◎小麦の甘味と旨みが引き出される・・・酵素:アミラーゼとプロテアーゼ
◎しなやかでよく伸びるグルテン・・・パン生地のpH低下酸化

そして、最後に声を大にして言いたいがあります。

冷蔵発酵は楽チンです!

もともと私にとっては、忙しい子育て中にもこだわりのパンが焼きたくて探求してきた製法です。

1日目⇒計量・捏ね・前発酵(室温)
【一次発酵:冷蔵庫へ】
2日目⇒室温に戻す・分割・ベンチタイム・成形・最終発酵・焼成

簡単にスケジュールを書きましたが、

大変な作業を2日間にわけて行うと、自分の負担は2分の1です。

長い一次発酵は冷蔵庫にお任せなので、その間に家事や仕事を行うことができます。

ただ、家庭のパン作りの難しいところは春夏秋冬の室温と湿度の違いです。
冷蔵庫の温度も季節によって違うこともあります。

この問題を解決するのがパン屋さんのパン作りとは違う、家庭でのパン作りの最大のテーマだと思います。
家庭の道具を使いこなすにはコツと経験が必要です。

パン作りを続けて来られた方、そしてこれから挑戦したい方。
パンを美味しく作りたいと思う気持ちで、家庭でのパン作りにチャレンジされていると思います。

だからこそ、真摯に伝えたいと思います。
冷蔵発酵のパン作りも続けていけば、絶対に成功します。
家庭の温度や湿度は、その家それぞれで違います。レシピ通りにはいかないのは当然なのです。

このブログを読んでくださった方の中にも、
一度冷蔵発酵にチャレンジしてみたけど上手くいかなかったという方がいるかもしれません。
私もそうでした。
それでも、次はもっと上手くできます。
私は3回はチャレンジしてほしいと思っています。

『3度目の正直』

3回やれば、かなり身に付きます。

教室のレッスンでは皆さんの家庭でのパン作りをフィードバックしていただいて、
ひとりひとりの家庭の冷蔵庫に合わせたアドバイスやサポートを行っていきます。


ブログでも私自身の知識と経験は、皆さんにどんどん還元していきたいと思っています。

このブログで冷蔵発酵に良い印象を持っていただけたら、とても嬉しいです。
ぜひチャレンジしてみてくださいね♪

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参考資料
パンの世界 基本から最前線まで
パン作りのメカニズムとアルゴリズム
科学でわかるパンの「なぜ?」
木下製粉株式会社ホームページ
藤本章人,井藤隆之,井村聡明:伝統的パン種のおいしさと微生物の関わりについて
光 永 俊 郎:小 麦 の プ ロ テ ア ー ゼ に つ い て