【パン作りのなぜ?】捏ねないパンが膨らむ原理とは?グルテンが出来る仕組みを考える!

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パン作りの工程の中で「大変だな~、面倒だな~」
と思うNo.1は、やはり【捏ねる】という作業ではないでしょうか。

この「捏ねないパン」は、皆が抱えるその思いにズバっとはまったのか、
とても話題になりましたね。

でも、捏ねるのが当たり前だと思っていたパンが、
なぜ捏ねないでできるのか(・_・;)??

とても不思議ですよね。 
私もそうです。
なので、ものすごく調べました( ´ω`)!!

このなぜ?に対して、グルテンができる仕組みに着目して考えていきたいと思います!

捏ねないパンと捏ねるパンの違い/なぜグルテンが出来るのか?


まずパンが膨らむために必要なグルテンはどのようにできるのかを考えます!


小麦粉に含まれるタンパク質(グリアジンとグルテニン)は水を吸収します。 
*小麦粉=強力粉等 水=材料の水分(水や牛乳等)
       ↓
ここに物理的な力を加える。
*捏ねる作業
       ↓
グルテンが密につながった網目組織ができる!

捏ねることで、グルテンが強化されて、弾力が増します

そして、捏ねるに従ってグルテンはよく伸びるようになります

捏ねるパン、例えばバターロールのようにソフトでリッチな生地は、
よく捏ねる事でグルテンの網目組織を強化して、ふんわりとした食感になります。

では、捏ねないパンにグルテンはできているのでしょうか?

材料の小麦粉と水を混ぜると、
小麦粉中のタンパク質(グルテニンとグリアジン)が水を吸収し、グルテンができます。
捏ねていないという事は、グルテンの弾力はなく、伸びる性質も不十分です。


この時、パン生地はボソボソと繋がりがなく伸びません。

捏ねないパンの場合、生地を寝かせる時間パンチ
この2つを組み合わせることで、伸びの良いグルテンを作っていきます。

捏ねないパンのレシピではパンチの工程がないものもあります。


ただし、捏ねないパンには生地を寝かせる時間が必要。これは、多くのレシピでもそうだと思います。

【検証】捏ねないパンにグルテンが作られる様子を生地の変化を通して見てみよう!

材料を混ぜた直後

温度25℃
小麦粉に対して水分量80% 
(小麦粉100gに水80g)

材料は、小麦粉、インスタントドライイースト、塩、水のみです。
仕込み水のベーカーズパーセントは80%の高加水のレシピです。
ボールの中でヘラを使い、全ての材料を混ぜ合わせました。

材料を混ぜた直後、写真のようにべっとりと弾力はありますが、ボソボソと繋がりの悪い生地になりました。

この生地を室温25℃で1時間発酵させます。

1時間後のパン生地
1時間後のパン生地を伸ばした状態

1時間が経過し、パン生地はほとんど膨らんでいません。
表面は艶っぽくなっていますね。

ヘラで生地を伸ばしてみると、、この通りに薄い膜状に伸びます。

え~!何もしてないのにすごい。
時間をかけて寝かせるだけで生地の状態は全く変わります。

このパン生地をヘラで折り返すようにパンチを行います。

さらに、室温で数時間発酵させ、その後冷蔵庫で一晩の一次発酵をとります。

パンチ後、一晩冷蔵庫で一次発酵させたパン生地


一次発酵後の生地は、気泡を含んでいて1.5倍位に膨らんでいます。
生地がボソボソした感じはなくなり、さらに艶っぽく柔らかくなりました。

分割せずに、カードで生地を折りたたんで成形します。

成形後

成形した生地を、最終発酵させます。
そして、たっぷりと霧吹きをしてオーブンで焼成していきます。

焼成後の捏ねないパン
捏ねないパンの断面

加水の多い生地で、発酵させると横にだれていきます。 

焼成中はふわーと膨らみます。皮はぱりっと香ばしく焼けました。
断面は、大小の気泡とむっちりと水分を多く含んだクラム(内相)がわかりますね。

バケットのような、ハード系のパンのクラムに近い仕上がりです。

【製パン理論】捏ねないパンのなぜ?グルテンが出来る仕組みを考える!

グルテンの構造(イメージ図)

検証で作った捏ねないパンの工程で、グルテンがどのように変化し作られるのでしょうか?
製パン理論の本や文献を参考に考察しています。

①材料を混ぜた後 

材料の小麦粉のタンパク質(グリアジンとグルテニン)を水が混ざると、グルテンができます。捏ねるという物理的刺激がないためグルテンはポツポツと存在しているだけで、お互いにつながっていない状態です。

この時、パン生地はぼそぼそと荒れた表面をしていて、薄く伸ばすことができません。

グルテンは主に縦方向の構造をしていて、相互のつながりが弱いです。
グルテン同士が分散してスカスカの状態。
これでは、すぐにちぎれてしまいますね。

②混ぜた生地を1時間寝かせた後

混ぜた後にパン生地を放置すると、艶っぽい表面になり薄く伸ばすことができるようになります。
寝かせることで、グルテンの構造は縦方向のみではなく横方向にもつながりをもつようになります。
よって、グルテンの網目構造はより複雑に生地全体につながっていきます。

こうなると、パン生地は薄く伸ばしてもちぎれる事はありません。



さらに詳しく考えてみましょう!
グルテン分子はSH基をもっています。 

そのSH基が、違うのグルテンの分子内のS-S結合と出会うと、新たに分子間S-S結合(図の赤線)を作ります。

SH基とS‐S結合の交換反応

分子間S‐S結合が横の繋がりとなって、グルテンの網目構造は複雑になります。
一方で分子内のS‐S結合が切れるので、図の上側のグルテン分子のつながりは弱くなり、グルテンは伸びやすくなりますね。

このSH基とS‐S結合の交換反応が、パン生地を休ませた時に緊張が緩んで伸ばしやすくなる事に関係すると考えられているようです。

③パンチ後

パンチを行うと、物理的な力が加わりグルテンの弾性が高まります。グルテン分子がぎゅっと折りたたまれて、密に絡みあうイメージです。グルテンは強化され、より密な網目構造になります。

④一次発酵(一晩)

長時間寝かせる事によって、SH基とS‐S結合の交換がさらに進みます。
すると、グルテンの横のつながりが増えて伸びの良い生地になります。

また、パン生地中には空気中の乳酸菌や酢酸菌が発生した有機酸(乳酸や酢酸)ができます。 
イーストは発酵しアルコールを発生します。

これらの有機酸やアルコールはグルテンを柔らかくする役割があり、より生地が緩んで伸びやすくなります。

発酵中のグルテンの形成

一方で一次発酵中はグルテンの弾性が高まり、強化されます。
なぜでしょうか?
イーストが発酵活動をして発生する炭酸ガスがグルテン膜を引き伸ばし、パン生地が膨らみます。


この時、グルテンに弱い物理的刺激が加わるため、グルテンが強化されて網目構造はより密になります。

発酵中は、パン生地の弾力は高まるのと同時に、柔らかく伸びる性質も増していきます。
この反対の働きが上手くバランスをとることで、程よく弾力があり、薄く伸ばしても切れない、しなやかなパン生地に変化していきます。 

発酵ってすごい(゚O゚)!!

このように、一次発酵とパンチを行うことでもグルテンは形成され、網目構造は生地全体に広がっていきます。

「捏ねる」という作業でグルテンを形成する過程を、小麦粉とイーストの持つ力で長い時間をかけて行うというイメージです。
人間は見守りながら、少し手助けをしてあげる感じですね( ´ω`)

さらに、成形⇒最終発酵という工程を進めていきます。

もうわかりますね!


⑤成形

物理的刺激が加わり、グルテンが絡み合う。パン生地はプリっと弾力が増す。


⑥最終発酵

グルテンの横のつながりが増えて柔らかくよく伸びるパン生地になる。
一方で、発酵で炭酸ガスの膨らみが物理的刺激となりグルテンの弾力が増す。

⑦焼成

ここまでの工程でパン生地はよく伸びるしなやかなグルテン組織ができています。
さらにオーブンの中でパンの表面が膨らむ前に焼き固められるのを防ぐために、霧吹きをします。

クープをいれると、より膨らみが良くなります。

準備万端! 

オーブンにいれるとパン生地はプワーっと膨らんで、焼き色もOK! 

捏ねないパンが完成します\(^^)/

グルテンの量が少ない捏ねないパンの食感は?

捏ねないパンも一般的なパンと同じように、一次発酵を終えたパン生地を成形し、最終発酵、そしてオーブンで焼成します。 

そして、時間をかけて作られたグルテン膜に炭酸ガスや水蒸気などが包まれて膨らみ、パンが完成します。気泡は膜に包まれた状態でパン生地の断面に見えてきます。

グルテンは気泡の膜の骨格を作ります。

焼成後断面

面白いのが、この気泡の膜の様子でパンの食感を想像することが出来る事です!

今回作った捏ねないパンの断面は大小の気泡ができていて、それを包む気泡の膜は厚いのがわかります。

捏ねないパンは、グルテンのつながりが弱いため、気泡を包む膜は膨らんだ時に簡単に潰れてしまいます。
すると、隣合った気泡と一緒になって大きな気泡になります。
結果、気泡を包む膜も厚くなっていきます。

パンのクラム(内相)の気泡に影響するのは、グルテンの強さだけではありません。
ただ、このように考えると理解しやすいとおもいます( ´ ▽ ` )ノ



このような厚い気泡の膜はどんな食感でしょうか?

パン生地のクラム(内相)は、この気泡の膜を食べていることと同じです。
厚い気泡の膜は噛みごたえがあって、もちもちした食感になります。

そして、グルテンのつながりが弱いと焼成中の膨らみも小さくなります。
そのため、パン生地の皮(クラフト)は厚くバリッと焼き上がります

バターロールの断面


ソフト系のバターロールのパン生地の断面と見比べると一目瞭然ですね!
よく捏ねて強いグルテン膜を作っているので、断面の気泡は小さく、気泡の膜は薄い。

そして、焼成中もパン生地はよく膨らむため、パンの皮(クラフト)も薄く焼きあがっています。

◎まとめ◎捏ねないパンのなぜ?寝かせる時間とパンチが伸びの良いグルテンを作る!噛むほどに美味しいもちもち生地を楽しもう!

捏ねないパンは簡単というイメージですが、実は奥が深いです。
その美味しさの秘密はグルテンの構造にある事がわかりました!

寝かせる時間とパンチ

この工程を上手く利用すれば、捏ねるという大変な作業を最小限にしても
味わいのある噛むほどに美味しいパンが完成しそうですね(^。^)

でも、時間は必要ですよ!ゆったりした気持ちで作りましょう( ´ ▽ ` )ノ

私も、レシピを練ってみようかな~
とても科学的で面白いテーマでした。はぁ、、調べるのに目が疲れました(笑)

皆さんのパン作りの手助けになれば嬉しいです♪

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参考文献

パンを科学する-パンの多様性とパン選びのポイント-https://www.jafs.org/pdf/HP_publication_contents.pdf
木下製粉会社HP
https://www.flour.co.jp/news/article/142/
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