予想以上のちがいに驚きました。。。
パン作りには硬水が良い?
よく聞くけれど、、、本当なの?
ハード系のバケットなどを焼く場合は特に。
材料の水の『硬度』の話題がでてきますよね。
私自身、普段のパン作りやレッスンでは水道水を使います。
それはパン作りのハードルを上げたくないからです。
パン作りのために、わざわざミネラルウォーターを買う?
そのことに抵抗がありました。
ただ、、実体験としてどれほどの差があるか試してみないと
説得力がありませんよね。
まずはやってみる!
市販のミネラルウォーターでパンを焼き比べてみました!
超硬水・軟水のミネラルウォーターの『硬度』は?
日本の水道水は地域によって差はあるようですが、
多くの場合で60mg/ℓ以下の軟水になります。
今回使用したミネラルウォーターはこのふたつです。
超硬水のコントレックス。硬度1468mg/ℓ。
軟水のクリスタルガイザー。硬度38mg/ℓ。
そして、もうひとつ追加です。
パンといえばパリ!
バケットが生まれたフランスのパリの水は硬度250mg/ℓ以上になるそうです。
いくら硬水といっても、
コントレックスの硬度1468mg/ℓはちょっと極端ですよね。
パン作りで使うなら、超硬水のコントレックスを薄めて使うことが多いはずです。
という事で、コントレックスをクリスタルガイザーで割りました。
計算上は硬度180mg/ℓの硬水です。
まとめると、今回の検証する水は3種類です。
①超硬水 硬度1468mg/ℓ コントレックス
②軟水 硬度38mg/ℓ クリスタルガイザー
③硬水 硬度180mg/ℓ コントレックスとクリスタルガイザーのミックス
【検証①】高加水パン生地をこねないパンで作る!
今回のレシピは、ハード系のパンを焼くことを想定して考えました。
小麦粉は、準強力粉のタイプERです。
加水は77%。
タイプERはそれほど吸水の良い小麦粉ではないので、結構やわやわな感じに仕上がります。
インスタントドライイーストの量は0.2%(小麦粉100gに対して0.2g)です。
こねずに、パンチと寝かせる工程でグルテンをつなげていきます。
材料を混ぜ合わせたパン生地を寝かせて、パンチを2回繰り返しました。
仕込み水の温度は20℃です。
パンチをしている段階でも、パン生地の固さに差がでました。
下の写真は、2回目のパンチをしているときのパン生地の様子です。
超硬水のコントレックスを使用したパン生地が、最も弾力があり締まっています。
その他の軟水と硬水のパン生地はやや柔らかい感覚です。
【検証②】硬度の高い水(硬水)は発酵が早い
へら捏ねでまとめたパン生地を一次発酵させます。
冬場のとても寒い日でしたので、暖房をつけても室温は15~18℃です。
室温でじっくり発酵させます。
ここで明らかな差がでてきました。
軟水を使ったパン生地は発酵が遅いのです。
室温で8時間発酵させたところで、硬度180mg/ℓの硬水のパン生地が適正に発酵しました。
約2.5倍です。
同じ時間発酵させたときの超硬水・軟水のパン生地の様子がこちら↓↓
超硬水のパン生地は2倍程度には膨らんでいますね。
一方で、軟水で仕込んだパン生地との差は歴然です。
軟水を使ったパン生地は発酵が遅いのです。
軟水で仕込んだものは1.5倍くらいにしか膨らんでいません。
発酵の温度や捏ねた時の生地の温度はほぼ同じはずなので、
硬度の影響はありそうですね。
ミネラルは発酵をどんどん進める!
硬度が高い方が発酵が早い?
それはなぜなのでしょうか。
硬度というのは、水に含まれるマグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)の量で決まります。
詳しくはこちらのブログをお読みくださいね。
【パン作り】水道水よりもミネラルウォーター(硬水)の方がよいの?
そして、イーストの発酵活動には、多くの酵素反応がかかわっています。
酵素というのは生き物の体の中で起こる反応を進める働き者です。
人間や生き物の体のなかでは、生きるために多くの反応が起こっています。
その反応をにかかわっているのが酵素です。
そして、酵素にはそのお手伝い役になる物質があるのです。
しれがミネラルやビタミン。
野菜や果物もバランスよく食べるように幼いころから言われるのは、
人間の体が生きるために必要な栄養が詰まっているからなのですね。
さてさて、ちょっと難しい話になってきましたが、
ここからが硬水の話になります。
硬水に多く含まれるミネラル分は、イーストの発酵の酵素反応の手助け役になります。
つまり、ミネラルが多いほうがイーストの発酵が進みやすいということになります。
硬水で仕込んだパン生地の発酵が早くなるのも納得できますよね。
そして、、気になるのは超硬水の発酵がやや遅いことです。
一回だけの検証では誤差レベルの話かもしれませんが。
ここで頭の中に浮かぶのが、牛乳で仕込んだパン生地の発酵が遅いことです。
材料に牛乳を用いたパン生地は発酵が遅くなります。
その理由は牛乳に含まれる灰分が多いためです。
灰分というのは、カルシウムやリン、カリウムなどのミネラル分の事です。
ミネラルには緩衝作用というものがあります。
緩衝作用というのは、多少の酸やアルカリ性の物質を加えてもpHが変わりにくくなる性質のことです。
パン生地は発酵するにしたがって酸性に傾いていきます。
イーストは酸性の方が元気いっぱいに発酵してくれるので、その方が都合が良いわけです。
でも、緩衝作用のあるミネラルが多いと、パン生地が酸性になりにくくなります。
すると、発酵自体が遅くなるというわけです。
ただし、、牛乳100g中に含まれる灰分の量は0.7gです。
コントレックスの硬度が1468mg/ℓですから、牛乳の方がミネラルの量が多いと予想できますよね。
(*注意)硬度は水の中にふくまれるマグネシウムとカルシウムの量のみを考えているので、ミネラルの全量ではありません。
ミネラルの量が程よく多いと発酵が早くなる。
そして、多すぎれば発酵が遅くなる。
超硬水でミネラル分の多いコントレックス。
そのパン生地の発酵がやや遅くなるのは、
これらの理由もあるのかなぁというのが私の考察です。
牛乳の効果についてはこちらのブログを参考にしてくださいね。
【パン作り】牛乳入りのパン生地が固くなるって本当?
【検証③】超硬水で仕込んだパン生地は弾力があって扱いやすい
どのパン生地も同じ状態になるまで、一次発酵をとりました。
大きさは約2.5倍に膨らんでいます。
硬水(硬度180mg/ℓ)⇒8時間
超硬水(硬度1468mg/ℓ)⇒10時間
軟水(硬度38mg/ℓ)⇒11時間半
それぞれ成形して、食パンを作ります。
ここでも差がついたのは、超硬水のパン生地です。
すごく張りがあって扱いやすいのです。
もともと、高加水のパン生地なのでとっても柔らかい。
通常の水道水で仕込むと、かなーりベタベタ(^^;)
でも、超硬水でしこんだパン生地は柔らかいものの成型できます。
この通り↑↑
丸めた生地も張りがあってダレていませんよね。
一方で軟水で仕込んだパン生地はやはりベタベタです。
写真だとわかりにくいかもしれませんが、丸めた生地もだいぶダレています。
そして、硬度180mg/ℓに調整したパン生地は、軟水で仕込んだパン生地に比べるとかなり扱いやすいです。
私は普段のパン作りで水道水を使っています。
日本の水道水は軟水ですが、水道水で加水77%のパン生地を扱うときと比較しても、
硬度180mg/ℓの硬水で作るパン生地は扱いやすいと思います。
二次発酵後のパン生地はこのようになりました↓↓
二次発酵の時間はどれもあまり変わりませんでした(90~100分、35℃)。
超硬水で仕込んだパン生地は、二次発酵後のパン生地にも張りがあって山形に盛り上がっている様子がわかりますね。
硬水を使うとパン生地の弾力・張りが強くなる!
硬水で仕込んだパン生地の弾力の強さは歴然です。
超硬水のコントレックスで仕込んだパン生地は、
発酵前のパンチをしている段階でも、その弾力の強さに驚かされました。
そもそも日本の水道水は軟水ですが、
フランスのパリやドイツなどのヨーロッパの水は硬水です。
そして、バケットなどのフランスパンに用いられる小麦粉はなんでしょうか?
◎準強力粉です。
カナダやアメリカなどから輸入される強力粉よりも、たんぱく質量の少ない準強力粉。
パンの骨格となるグルテンの量も少なくなります。
グルテンはイーストが出した炭酸ガスを包みこんで、風船のように膨らみます。
グルテンの量が十分でない小麦粉は、パンとして膨らむことができないのです。
薄力粉でパンを作ることが難しいのは、たんぱく質量が少ないからです。
パリで生まれたバケットは、準強力粉と硬水で作られます。
そして、硬水に含まれるミネラルはグルテンの弾力を強くします。
たんぱく質量の少ない準強力粉であっても、
硬水を使うことでイーストが出した炭酸ガスを包み込む丈夫なグルテン膜ができるのです。
だからこそ、あの気泡と分厚い膜ができるわけですね。
パリのバケットの味と食感は、硬水だから成せる技というのも納得できます。
余談ですが、
新婚旅行でパリに行ったときにパン屋さんめぐりをしました。
どこのパン屋さんも安いし、めちゃめちゃ美味しい。
クロワッサンもバケットもカンパーニュも、、、そりゃ最高でしたよ。
風土が作りだすパンの味は、まねできないものもあるのかもしれませんね。
さて、話を戻しますね。
ミネラル分がグルテンの弾力を強くするのはなぜなのでしょうか?
グルテンは、小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンという2つのたんぱく質が水と出会い、力が加わることでできます。
パンの材料を混ぜて、こねる作業のことです。
ミネラルは、このたんぱく質のグルテニンの結合を進めます。
グルテンは弾力と粘りという両方の特徴(粘弾性)がありますが、
グルテニンはプリプリと張りのある弾力に関わります。
そして、グリアジンはビヨーンと伸びる粘性にかかわるたんぱく質です。
ミネラルを多く含む硬水は、グルテニンの結合をぐんぐん進めます。
すると、パン生地は弾力のあるプリプリとした状態になるのです。
ミネラルの少ない軟水でしこんだパン生地が、だれてしまうのはミネラルの量が少ないからなのですね。
【検証④】断面を見て!!硬水作るパンのボコボコの気泡と厚い膜
硬度180mg/ℓの硬水で作ったパン生地の断面です↑↑
おぉー。theハード食パンですね。
底から上部まで、大小の気泡が入り、グーンと上に向かって伸びています。
ちぎってみるとこんな感じです。
ハチの巣のように厚い膜が全体にはっていますね。
実はこのパン生地なのですが、うっかり最終発酵をとりすぎてしまいました(^^;)
別の日に、硬度180mg/ℓの硬水で仕込んだパンがこちらです↓↓
こちらも、同じように大小の気泡が厚い膜に包まれています。
2回とも同じように焼きあがったので、
硬度180mg/ℓの硬水でつくると、分厚い気泡の膜ができるという特徴がみえてきました。
【検証⑤】超硬水で作るパンは細かい気泡がたくさんできる!
超硬水のコントレックスで作ったパンの断面はどうなるでしょうか?
コントレックスの硬度1468mg/ℓで、ミネラルがたくさん含まれています。
あれ?
硬度180mg/ℓの水の時と比べると、気泡が小さくなっています。
きめ細かく、普通の食パンっぽい感じです。
気泡を包む膜も薄くなっていますね。
こんな感じで、ちぎってみても小さい気泡がたくさんあります。
これはなぜなのでしょうか?
ここからは私の考えです。
硬度が高い水には、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが多く含まれています。
そのミネラルには、グルテンの弾力を強くする働きがありますね。
バケットなどのハード系のパンの特徴は、
ボコボコと大小の気泡の入った断面です。
このようなパンの内相になる理由は、グルテンの強さが関係しています。
食パンやバターロールなどのパンは、よーく捏ねて強いグルテンを引き出します。
すると、この写真のように非常にきめ細かい気泡ができます。
くちどけもよく、ふわふわのソフトな食感になります。
一方で、ハード系のパンはたんぱく質量の少ない準強力粉を使い、
捏ね具合も控えめにします。
すると、グルテン膜の網目構造は弱くなります。
パンはイーストが発生した炭酸ガスをグルテン膜が包みこんで、風船のように膨らみます。
風船のゴムの部分である、グルテン膜が弱いと隣の気泡同士がくっついて大きい気泡になります。
すると、気泡を包む膜も分厚くなりますよね。
ハード系のパン独特のボコボコの気泡を作り出すためには、
グルテンが強すぎてはダメなのです。
ちなみに弱すぎてもダメです。
今回の作り方では、超硬水のコントレックスはミネラルが多すぎて、
強いグルテンを作ってしまったと予想できます。
その結果として、ハード食パンとは違う細かい気泡になってしまったのではないかと思います。
【検証⑥】軟水で作るパン生地は、グルテンが弱すぎて膨らまない!?
軟水のクリスタルガイザーで仕込んだパン生地の断面も驚きます↓↓
あらら、、大きい空洞ができてしまいました。
食パンなのでカット面で次第では?と思いますが、この断面だけではありません。
どのカット面もこんな感じで大きい穴だらけです。
底の方の気泡はつぶれてしまって、まったく上方向に伸びていませんね。
明らかに失敗してます。
このような、大きな空洞の原因のひとつは、パン生地のグルテンが弱すぎる事です。
過発酵で弱々しいパン生地によく起こります。
この写真は、わざとひどい過発酵にしたものです。
上部に大きい空洞ができ、底の方の気泡はつぶされて目が詰まっていますよね。
過発酵の時もそうですし、今回の検証で行ったパンの製法はいわゆる『こねないパン』です。
『こねない』という事は、強いグルテンはできません。
パンチは2回行いましたが、軟水を使ったパン生地が膨らむために必要なグルテンはできていなかったという結果です。
ミネラル分はパン生地の弾力を強くします。
硬度38mg/ℓの軟水には、ミネラルが少ないのです。
生地を扱う段階から、軟水で作るパン生地はとても柔らかくてダレていました。
やはり、焼き上がりにも相当が差がでてきますね。
日本の水道水も軟水です。
今回の配合で軟水を使うなら、作り方自体を見直さないとダメという事になりますね。
【検証⑦】硬水で作るパン生地の味わいの深さに驚きました!!
味のちがいは歴然でした。
圧倒的に硬水・超硬水で作るパンの味は濃いのです。
硬水に多く含まれるミネラルは発酵を進めます。
発酵はパンを膨らませるだけではなく、パンの複雑な風味と旨みが増していきます。
ハード系のようなシンプルなパンほど、
味の奥にある発酵の旨みが効いてきます。
むしろ、発酵の旨みがないパンはとっても味気のないパンに感じてしまうほど。。
特に美味しいなぁと感じたのは、
硬度180mg/ℓに調整した硬水でつくったパンです。
超硬水のコントレックスでつくったパンの味も濃いのですが、、
明らかに違うのは食感です。
硬水で作ったパンの厚い気泡膜は食べるとモッチリ。
噛むほどに味が出てくる旨みがあります。
普通に美味しいです(笑)
一方で超硬水でつくったパンは気泡を包む膜が薄いため、少しパサついた印象もあります。
十分美味しいですが、ハード食パンのみずみずしい食感とは違うのです。
そして、軟水で仕込んだパン。
一言、、味が薄い。
硬水でつくったパンと比べてしまうと、、歴然の差でした。
◎まとめ◎軟水・硬水・超硬水、、パン作りに使うならどの水にする?
今回の検証は、私自身かなり学ぶことが多かったです。
私は、自分でパンを作る時もレッスンでも基本的には水道水を使っています。
ただ、パン作りに硬水を使うとこれほどの差があるとは、、、
めちゃめちゃ面白いですよね(笑)
そして、硬水で仕込むパンは本当に美味しい。
やはり、準強力粉との相性は抜群なのかもしれません。
パン屋さんがわざわざ硬水を使うというのも、納得せざるを得ないほどの奥深い味わいです。
とはいえ、やはり私が行うのは家庭でのパン作りです。
数十MLの硬水を使うために、ペットボトルを買うのか?という問題もあります。
基本的には、日本の水道水で美味しく作れるレシピを考えるのが
私のパン作りです。
今回の配合と全く同じもので、水道水を使ったら?
作り方を工夫すると、こんな仕上がりになります↓↓
まだまだ工夫は必要かな?と思いますが、もっちもちの食感です。
クリスタルガイザーと同じく軟水である水道水。
膨らむ力のなかった軟水で仕込むパンが、なぜここまで変化したのか?
答えは、長時間発酵とグルテンの性質です。
①パンチの回数を増やす
②パンチのタイミングを何段階かに変えて、一次発酵後にキメを整える
パン作りを科学的にとらえると、
完成するパンの食感をイメージしてレシピを考えることができるようになります。
ただ、、、レッスンの上級コースではやりたいですね。硬水のパン作り。
なぜか??
家庭のパン作りもマニアックに楽しみたい。
そんな楽しい脱線はありかな?と思うからです(^^)/
家庭のパン作りの正解がわからない?
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参考資料
食品成分データベース 文部科学省 https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl
科学でわかるパンの「なぜ?」
パンの世界 基本から最前線まで
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム