【パンの材料Q&A】モルトシロップ(モルトパウダー)の役割とは?/フランスパンに配合する理由を解説します

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モルトシロップの役割とは何なのでしょうか?
入れないとダメなの?これだけのために買わないといけないの?

新しいレシピにチャレンジしようとする時、
ただ材料に書いてあるから買うというのもちょっと納得いかないですよね。

私もそうです。
毎日のお料理でもそうですが、一回きりしか調味料を買うのは気が引けます。

大好きなパン作りならなお更です。
せっかくお勉強して上手くなろうとしているのですから、
わからないことはひとつずつ理解して、納得して上達していきましょう。

このブログではモルトエキス(モルトパウダー)について下記の内容がわかりますよ!

◎モルトシロップの原料とは
◎モルトシロップの役割
◎モルトシロップを配合するパンの特徴
◎モルトシロップを代用したい場合はどうするか

モルトシロップの原料とは

モルトシロップは発芽した大麦を煮出してつくる、麦芽糖を濃縮したエキスです。

大麦が発芽する時に、大麦に含まれるデンプンがアミラーゼによって分解されて麦芽糖ができます。

デンプン→(酵素:アミラーゼ)→麦芽糖

そのため、モルトシロップは麦芽糖だけでなく、アミラーゼも一緒に含まれているというのが最大の特徴です。

粉末状になっているものが、モルトパウダーです。
形状は違いますが、使用目的は同じですのでここでは代表としてモルトシロップと記載してお話ししていきますね。

【モルトシロップの役割①】イーストのアルコール発酵の栄養源を作り出す

モルトシロップは麦芽糖の濃縮エキスですが、デンプンの分解酵素であるアミラーゼを豊富に含んでいることが大きな特徴です。

イーストのアルコール発酵のについて図1に示します。

図1

モルトシロップに含まれるアミラーゼと麦芽糖に赤丸をつけました。

モルトシロップは主にバケットなどの砂糖が配合されないパンに使われることが多いものです。

砂糖(ショ糖)はイースト自身がもつインベルターゼという酵素によって、
ブドウ糖と果糖に分解されて発酵活動の栄養源になります。

しかし、材料に砂糖がない場合、イーストの栄養源になるものがありません。
そのような時、小麦粉のデンプンから段階的にブドウ糖が分解されていきます。

詳しくはこちらのブログに記載していますので、良かったら参考にしてくださいね。
砂糖なしでもパンは膨らむのか?/砂糖不使用のフランスパンが発酵する理由

ここでは図1を見ながら、ポイントのみお話ししていきますね。

小麦粉のデンプンは小麦粉が持つ酵素:アミラーゼによって二糖類の麦芽糖に分解されます。

麦芽糖はブドウ糖2分子が手を繋いでくっついている構造をしています。
麦芽糖はイーストの細胞内に取り込まれて、イーストがもつ麦芽糖分解酵素(マルターゼ)で分解されてブドウ糖になります。

小麦粉のデンプン→(酵素:アミラーゼ)→麦芽糖→(酵素:マルターゼ)→ブドウ糖

ブドウ糖はイーストの発酵活動の栄養源となり、炭酸ガスとアルコールが発生します。

このように小麦粉デンプンからブドウ糖まで分解されていきますが、
この過程にはある程度の時間が必要です。

ここでモルトシロップが登場します。

モルトシロップは麦芽糖と酵素のアミラーゼの両方を含みます。

◎麦芽糖はイーストによってブドウ糖に分解されて発酵活動の栄養源になる。
◎アミラーゼが小麦粉デンプンの分解を促進する

上記の2つの働きによって、砂糖不使用のパンでも安定した状態で発酵を進めることができるのです。

【モルトシロップの役割②】パンの焼き色が濃くなる

パンの焼き色を濃くする材料のひとつが砂糖です。
そのため、砂糖不使用のバケットなどのパンや焼き色が付きにくいという特徴があります。

そもそも、砂糖が入っていると焼き色が濃くなるのはなぜなのでしょうか?

パン作りのブログにプリンの画像がでてきてびっくりしましたかね。
このカラメルがひとつのヒントになります。

砂糖を加熱し、180℃~190℃の高温になるとカラメルができます。

これをカラメル化反応といいます。
茶色に色づくとともに、カラメルの香ばしい風味がありますよね。
この反応がオーブンにいれたパンの表面でも起こっているのです。

そしてもう一つはメイラード反応という、アミノ酸と還元糖が関わる反応です。
詳しくはこちらのブログに記載していますので、今回は用語の紹介のみにとどまらせていただきますね。
【パンの材料Q&A】砂糖入りのパンがふわふわ柔らかい理由は?/パン作りの砂糖の役割を詳しく解説します

上記のように、砂糖がふくまれたパン生地はカラメル化反応とメイラード反応が起こり、
焼き色が濃くなります。

モルトシロップは麦芽糖を豊富に含みます。
麦芽糖はイーストのアルコール発酵に使われていきますが、全てが消費されるわけではありません。そして、麦芽糖はメイラード反応に関わる還元糖のひとつです。
パン生地がオーブンに入るときに残った麦芽糖は、メイラード反応がおこりやすいのです。

そのため砂糖不使用のパンであっても、モルトシロップが配合されると焼き色が付きやすく、香ばしい風味がプラスされます。

【モルトシロップの役割③】パン生地が伸びやすく、柔らかくなる

モルトシロップは麦芽糖の濃縮エキスで、麦芽糖は二糖類に分類されます。
そのため、パンの材料として砂糖がもっていいる役割と似た特徴を持ちます。

糖類は水によく溶けます。
それは、糖類の分子構造が水分子ととても仲良しだからです。

モルトシロップに含まれる麦芽糖は、パンの材料が混ざる時に小麦粉と水分子を取り合います。
小麦粉のタンパク質は水と出会うことで、グルテンを作っていきます(図2)。

図2

麦芽糖は小麦粉のタンパク質と水分子を取り合うため、
麦芽糖が存在すると、幾分グルテンができる量が減るのです。

グルテンは弾力があるのが特徴です。
グルテンの量が減ると、生地が伸びやすくなり、パン生地はふんわりと柔らかく仕上がります。


【モルトシロップの役割④】パンが固くなるのを遅らせる

モルトシロップに含まれる麦芽糖の糖分としての役割です。
糖分は保水性があります。水分子を引き付けて離さないのですね。

そのため、焼きあがったパンが固くなるのを遅くすることができます。

焼きたてはとても柔らかいパンですが、時間が経つと次第に固くなっていきます。
これは、単にパンが乾燥しているだけではありません。

パンのデンプンの老化(β化)が起こっているためなのです。

炊き立てのご飯はとても柔らかいです。
これを冷蔵庫に入れておくと時間とともに固くなっていきます。
これがデンプンの老化の身近な例です。

パン生地もデンプンを豊富に含みますので、デンプンの老化が起こります。
ここに保水性のある糖分が存在すると、
デンプンの中に水分子を引き留めておくことができるのです。

結果として、デンプンの老化が遅くなり、パンの柔らかさが持続しやすくなります。

モルトシロップをフランスパンに配合する理由

モルトシロップの役割をまとめると下記のようになります。

①イーストの発酵活動の栄養源を作り、安定した状態で発酵が進む
②パンの焼き色が付きやすくなる
③パン生地が伸びやすくなり、やわらかくボリュームが出やすくなる
④パンが固くなるのを遅らせる

フランスパンなどのシンプルな配合のパンの場合、

小麦粉、イースト、塩、水というパンの基本材料のみで作られることが多いです。

これらのパンに砂糖のような甘味をつけずに、安定した発酵を促進し焼き色をしっかり付けることができる。

これがフランスパンにモルトシロップを配合する理由です。

モルトシロップを他の材料に代用できるのか?

モルトシロップは麦芽糖アミラーゼを一緒に含むのが特徴です。

モルトシロップの役割を考えると、少量の砂糖で代用するのもありかな?とも思いますね。
しかし、もともと砂糖不使用のパンに使われるものなので、
それだと元も子もないような気もします。

パンの小麦粉からブドウ糖が分解されていくシステムを考えれば、
砂糖不使用のパンでもモルトシロップなしで発酵させることができます。

そのため、モルトシロップがなければ入れなくてもパンは完成します。
特に他の分量を変える必要もありません。

ただし、同じ膨らみにはなりませんよ。

◎まとめ◎モルトシロップを買うか買わないか迷うならば、、

モルトシロップの役割についてお話ししていきました。
やはり、モルトシロップが活躍するのはバケットなどのハード系のパンを焼く時です。

ハード系のパンを頻繁に焼く、レシピにモルトシロップやモルトパウダーが配合されているレシピたくさんチャレンジしてみたいというならば、
思い切って買っても良いのかなと思います。

やはり、レシピに記載されているものには意味があります。
レシピの作者さんが描いているパンを作るためには、必要な材料は揃えたいですしね。

1回試しに、ハード系のパン焼いてみようかな、、という状況でしたら、
とりあえず買わないで作ってみるのでも良いと思います。
レシピにチャレンジする機会は1回きりではないですからね。

ハード系パン楽しい!!となってから買うのでも良いのかなと思います。

私自身がレシピを作る時は、生徒さんにできるだけ材料を増やさずに作ってほしいので、
モルトシロップやモルトパウダーを配合したレシピは作らないようにしています。
家庭でのパン作りは、お店のパン作りとは状況が違います。

長く続けてほしいからこそ、材料もたくさんの種類をそろえなくても、
バリエーションのあるパン作りができるようにレシピ作りをしています。

材料の特徴を知っていると、代用したい時はどうするか?
その材料がない時はどう考えるか?という疑問に対して答えを見つけることができるようになります。

パン作りの理論をひとつひとつ学んでいくと、
必ず自分自身の上達に繋がっていくはずです(^-^)

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参考資料
パンづくりに困ったら読む本
科学でわかるパンの「なぜ?」
パンづくりの失敗と疑問をスッキリ解決する本
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム