なぜ砂糖ではなく、はちみつをいれるの?
パン作りをされている方は、配合の意味まで知りたくなってしまいますよね。
パン屋さんの食パンなどでも『はちみつ入り』と記載されているものをよく見かけますね。
食べてみると、はちみつの味がそんなにする訳でもない場合もあります。
もちろん、はちみつの味を全面にだしたハニーブレッドなどもあります。
はちみつの濃厚な風味が美味しいですし、パン生地はとてもしっとりしています。
このブログでは、はちみつに含まれる糖の種類に着目して、
パン作りにおけるはちみつの役割について、くわしく解説していきたいと思います。
以下の疑問についてお話していきますよ!
◎糖の種類に注目!はちみつと砂糖の違い
◎パンの水分量は調整すべき?はちみつに含まれる水分量
◎はちみつ入りパンのしっとり長持ち効果の不思議
◎はちみつを材料と混ぜるときのコツ
はちみつの主成分は果糖とブドウ糖
私達が『砂糖』と呼んでいるものの主成分はショ糖という糖類の一種です。
一般的には上白糖やグラニュー糖などの白い砂糖をイメージすると思います。
実は砂糖の中にはショ糖だけではなく、色々な種類の糖類が含まれています。
グラニュー糖はとても精製度の高い砂糖のひとつで、その中にショ糖を99.97%含んでいます。
代表的な砂糖に含まれるショ糖の割合は以下のようになっています。
・グラニュー糖:99.97%
・上白糖:97.69%
・黒糖:約80%(製品によって幅がある)
黒糖でさえも、成分のうち大半はショ糖であることが分かります。
一方で、はちみつに含まれる糖の種類はどうでしょうか?
【はちみつの成分】
・果糖:38~45%
・ブドウ糖:31~38%
・ショ糖:1~2%
なんと、ショ糖が1~2%しか含まれていません。
成分の70%以上を果糖とショ糖が占めています。
ショ糖を主成分とする砂糖とは性質や味も、大分違うのではないかという予想ができますね。
これは余談ですが、へえ~というお話なので興味ある方はお付き合いください。
はちみつはミツバチが花の蜜を集めているものです。
花の蜜はショ糖が主成分なのです。
それをミツバチが巣に運んでいき、巣で羽で風を起こして水分を蒸発させます。
その時にミツバチの唾液に含まれる酵素が花の蜜に混ざると、
ショ糖がブドウ糖と果糖に分解されるのです。
そのため、蜂蜜の主成分は果糖とブドウ糖です。
構成比ははちみつによって違うそうですが、大体1:1の割合で含まれていることもわかりますね。
このお話、ミツバチの働き者感にも感心しますが、
ポイントはショ糖が分解されてブドウ糖と果糖に変化するという部分です。
糖を分類するときに、構造式の最小単位の糖が何個含まれるかで、単糖類・二糖類・多糖類、、というように呼ぶことがあります。
ショ糖は二糖類。
ブドウ糖と果糖は単糖類です。
ショ糖はブドウ糖と果糖の2つが手を繋いだような構造をしています。
2つの糖があるから二糖類です。
ちなみに、パン作りでよく出てくる麦芽糖はブドウ糖2つが手を繋いでいる二糖類です。
ショ糖⇒ブドウ糖+果糖
麦芽糖⇒ブドウ糖+ブドウ糖
上記のように分解されると覚えておくと、パン作りの理論がとても理解しやすくなります。
はちみつに多く含まれる果糖は保湿効果バツグン!
砂糖とはちみつの成分で大きく違うのが、
はちみつにはブドウ糖と果糖が多く含まれるということです。
さて、パンに砂糖を加える役割とはどのような事があるでしょうか?
・イーストのアルコール発酵の栄養源
・焼き色が濃くなり、香ばしい風味がする
・パン生地がしっとり柔らかくなる
・時間が経っても、パンが固くなりにくい
これらの砂糖の効果は、同じ糖を含むはちみつにも同じようにあります。
ただ、含まれる糖の種類が違うために、
砂糖(ショ糖)とはちみつではパン生地に対する効果に差があるのです。
注目すべきは果糖の量です。
果糖はショ糖よりも『保水性』が高い糖です。
そのため、果糖が多く含まれるはちみつ入りのパンはしっとり柔らかくなり、
そのしっとり感が長持ちするのです。
砂糖の保水性やその他の効果については、こちらのブログに詳しく記載しています。ぜひ参考にしてくださいね(^^)
【パンの材料Q&A】砂糖入りのパンがふわふわ柔らかい理由は?/パン作りの砂糖の役割を詳しく解説します
砂糖とはちみつは甘さが違う!?
砂糖とはちみつを食べてみるとどちらが甘さを強く感じますか?
私もそうですが、ほとんどの方は『はちみつの方が甘い』と答えるのではないかと思います。
ハチミツで有名なサクラ印さんのホームページを調べてみると、
砂糖の1/3の量で、はちみつは砂糖とほぼ同じ甘さになるそうです。
つまり、砂糖大さじ1とはちみつ小さじ1が同じ甘さという事ですね。
サクラ印ハチミツ 株式会社果糖美蜂園本舗
https://sakura-honey.co.jp/cafe/nutrition/index.html
ショ糖と果糖、ブドウ糖ではそれぞれ甘味度に違いがあります。ショ糖を100として相対的に示します。
【甘味度】
・ショ糖:100
・果糖:120~150
・ブドウ糖:60~80
ショ糖と比べると、果糖の甘味度は高く、ブドウ糖の甘味度は低いということがわかります。
大東製糖株式会社さんでとても詳しく紹介されていましたので紹介しますね。https://daitoseito.co.jp/topics/basic
グラニュー糖はとてもすっきりした甘さでお菓子作りにもよく使われますね。
上白糖はしつこく感じる甘さがありますが、これもブトウ糖や果糖を含む転化糖*の含有量を考えると納得できます。
*転化糖:ブドウ糖と果糖が混ざった物。後引くような濃厚な甘さがある。
ただ、甘味度だけでは人が感じる甘さを説明しきれないという事実もあるようなのです。
はちみつや黒糖には灰分とよばれるミネラル分が多く含まれています。
灰分が多いと、甘さにコクを感じるようになります。
『この砂糖、味があるな』という感じでしょうか。
はちみつや黒糖は、そのものの風味や香りの個性が強いですよね。
単に甘いという言葉では語れない独特の風味があります。
となると、ただ甘さを感じるだけよりも、個性的な味がとても記憶に残ります。
パンにしたときも、黒糖パンやハニーブレッドというように、
パン自体の味付けをすることもできるのです。
はちみつに含まれる果糖とブドウ糖の割合は製品によって異なります。
その比率によっても甘さの感じ方は違うはずです。
また、灰分が多いので甘さにコクを感じやすいのがはちみつの特徴です。
一般的にはグラニュー糖よりもはちみつの方が甘いと感じることが多いそうです。
グラニュー糖と同じ量のはちみつを配合すると、パンの甘味も強くなるということが予想できますね。
はちみつの種類によって果糖とブドウ糖の割合が違うというのは、色々な面ではちみつの性質に影響しています。
冬場になると、はちみつが結晶化して固まってしまうことがありますよね。
これは仕方がない事で、溶かせば問題なく使えます。
この結晶化のしやすさも、果糖とブドウ糖の割合が関わっているそうなのです。
ブドウ糖・・・結晶化しやすい
果糖・・・結晶化しにくい
上記のような性質があるため、ブドウ糖が多く含まれるはちみつの方が結晶化しやすいという事になります。
私が食べたことのあるはちみつでは、この結晶化した食感をむしろ楽しむものもありましたよ。シャリっと濃厚な粘度があって、それも美味しいのです。
はちみつは色々な楽しみ方がありますよね(^^)
パンに配合するだけでなく、パンに塗るはちみつも大好きです。
はちみつの水分量に注意!パンの仕込み水の量の考え方
はちみつは成分のうち約20%の水分を含んでいます。
砂糖には見た目通りにほとんど水分は含まれていません。
そのため、砂糖をはちみつに置き換えるというときには、
パン生地の仕込み水の量を減らす必要が出てきます。
単純に考えると、はちみつの量×0.2の量の水分が増えることになります。
実際には作ってみないとわからないですが、
配合の考え方としては、はちみつの量×0.2の量の水を仕込み水から差し引いて計算すると良いと思います。
例えば、20gのはちみつを加える場合は、
20×0.2=4
4gの水を仕込み水から減らすという考え方です。
こんがり焼き色!はちみつとメイラード反応の関係
はちみつ入りのパンは焼き色が濃くなりやすいです。
その理由としても、主成分の果糖とブドウ糖が関係しています。
砂糖のパンにおける役割のところでもお話しましたが、
糖が配合されたパンは焼き色が濃くなり、香ばしい風味がつきます。
この焼き色に関わる反応のひとつなメイラード反応です。
メイラード反応は糖とアミノ酸が関わる反応です。
注目するのは『糖』の部分です。
この『糖』。どの種類の糖でも良い訳ではありません。
糖の構造式の中に、還元基とよばれる部分をもつ還元糖とよばれる糖でなければなりません。
長くなってしまうので、詳しい説明は省きますが、
パン作りで必要なポイントは下記の糖です。
還元糖・・・ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖
非還元糖(還元糖ではない)・・・ショ糖
砂糖の主成分は非還元糖のショ糖です。
一方で、はちみつは還元糖であるブドウ糖と果糖を多く含みます。
そのため、砂糖よりもはちみつの方がメイラード反応が起こりやすく、
パンの焼き色がつきやすいという事になります。
はちみつは粉の上に置く?仕込み水に溶かす?材料をまぜる時のコツ
はちみつをお皿の上に測ってしまうと、全部綺麗に入れられない(゚ロ゚)
という自体になります(笑)
特に少量しか配合されない場合は、大きく誤差がでてしまいますよね。
解決策としては下記の2つが考えられますね。
◎粉類の入ったボールに直接測ってしまう。
◎仕込み水に溶かしてから入れる。
私はどちらのパターンもパン教室で教わりました。
どちらも正解なのだろうと思います。
現状では、仕込み水に溶かしてから他の材料とまぜる事をおすすめしています。
この方がムラなく混ぜられるからです。
しかし、夏場など仕込み水に冷水を使う場合は、全く溶けてくれないですね。
スプーンについて取れない。。
こういう時は、少量の常温の水ではちみつを溶かしてから、冷水を足して計量します。
ひと手間ですが、この方が後々が楽に作業できるようになりますよ。
ライ麦パンと相性バツグンのはちみつ
ライ麦パンというと『食べにくい』という印象がある方も多いと思います。
確かにライ麦は独特の風味がありますね。
食べ慣れてくると、その風味の虜です(^^)
シニフィアン シニフィエの志賀シェフの本*で読んでから、
私もレシピ作りに実践していることがあります。
ライ麦や全粒粉などの茶色い粉の独特の風味を穏やかにするために、
『はちみつを少し入れる』事が効果的とのことなのです。
これは、昔から受け継がれてきた知恵ということで、
先人の知識はありがたく使わせて頂いています。
*パンの世界 基本から最前線まで 著・志賀勝栄
【注意】1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない
これは必ず知っておいて頂きたいことなので、ここでお話したいと思います。
私も子供が生まれる前に、妊婦学級などで口を酸っぱくするくらいに言われていた記憶があります。
1歳未満の赤ちゃんがはちみつを食べることで乳児ボツリヌス症にかかることがあります。
自宅でパン作りをしていると、パンをプレゼントしたり差し入れに使うという事もあると思います。
パンは離乳食でも食べることがありますよね。
赤ちゃんも食べる可能性があるという事を常に念頭に置いておいておく事が必要です。
詳しくは行政機関のホームページを見ていただくのが良いと思います。
厚生労働省のものをこちらにリンクしますね。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
パン屋さんでも『このパンにはハチミツが使われています』という注意喚起がされているのを見たことがあるのではないかと思います。
パンに配合されてしまうと、ハチミツの存在は全く目に見えなくなってしまいます。
自宅で趣味としてパン作りをする場合は、売り物ではありません。
でも、材料を知っているのは作った人だけです。
作り手として注意しなければならないことは、きちんと理解しておくと良いと思いますよ。
◎まとめ◎はちみつのしっとり長持ち効果をパン作りに活用しよう!
パン作りにおけるはちみつの役割についてお話しました。
砂糖と同じように『糖』という分類に入りますが、
それぞれの糖の種類によって、その性格は異なります。
はちみつの持つ『保水性』を活かして、しっとり感が長持ちするパンを作ることができます。
私も様々なレシピで、このはちみつの効果を活用しています。
はちみつの風味もパンの奥深い味わいのひとつになります。
ぜひ、はちみつ入りのパンの美味しさを発見してみてくださいね。
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参考資料
日本蜂蜜株式会社https://rengejirusi.jp/crystal/
一般社団法人日本養蜂協会https://www.beekeeping.or.jp/products/definition
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