パン作りでたまに聞く『水和』。この言葉の意味を説明する事ができるでしょうか?
あまり聞きなれない言葉ですが、
パン作りをする時に知っていて損はない!
とっても良い効果をもたらす現象です。
『水和』について、小麦粉の科学に注目して詳しく考えていきたいと思います(^^)/
パン生地をしっとりさせる!【水和】の効果について
水和が進んだ生地は、結果として以下のようなパン生地になります。
①パン生地がパサつかずしっとりする
②パンの水分が抜けにくくなり、
焼き上がりから時間が経っても硬くならずに、しっとり感が長持ちする
おぉー、とても良さそうなイメージです!
水和とは何か?
小麦粉の科学に迫っていきますよ!
水和とは?時間がパンを美味しくする理由を考える!
『水和』という言葉は、化学の用語として出てきますね。
*溶質の分子やイオンが、周りに水分子(H2O)を引きつけて結合する事を言います。
ここは、さらっと読み流してください(^。^)
パン作りにおいては、
小麦粉の細かい粒子に水分が行き渡り、浸透していくことを言います。
何(’◇’)???
簡単にいうと、
『小麦粉』のひとつひとつの粒に『材料の水分』がよーくしみ込んで、強く結びつく。
そのようなイメージです!
この小麦粉の水和という現象がどういうものなのか。
詳しい内容の文章がなかなか見つからなかったのですが、
木下製粉株式会社さんのホームページに
うどん作りの工程としての『水和』が詳しく説明されていましたので、
参考にさせて頂きました。
とてもわかりやすい記事の内容ですので、一度読んでみると理解がとても深まりますよ( ´ ▽ ` )ノ
https://www.flour.co.jp/news/article/784/
ここでは、小麦粉の粒の大きさに注目しています。
小麦粉はとても細かい粒の集合体ですが、製粉する段階で小麦粉の粒の大きさはどれも揃っているわけではありません。
小さい子どもの中でも、身長の高い子もいれば低い子もいるという感じですね。
その大きさの違う小麦粉の粒に水分を入れます。
単純に考えて、大きい粒の中心部分までに水分が染み込むまでには時間がかかりますね。
つまり、小麦粉の『水和』にはある程度の時間がかかります。
小麦粉と水が強く結びつく/水和したパン生地はしっとり長持ち!
パン作りにおいて、水和が進むと小麦粉と水分のが強く結びつきます。
その結果、水分の抜けにくい、しっとり感が続くパン生地になります。
この水和という現象に『結合水』『自由水』という説明をしている本*がありました。
私もこの表現でで学んでおり、水和を理解するにはとてもわかりやすいと思います。
ここでも深く考えてみたいと思います。
*パン作りの失敗と疑問をスッキリ解決する本 パン教室Bread&Sweet主宰 坂本りか監修
食品中の水分には『結合水』と『自由水』という2つの区別があります。
①結合水
食品中のタンパク質や糖などと結合した水。
自由に動き回ることができないため、通常の水がするような0℃で凍結したり100℃で蒸発する事がない。
②自由水
通常の水と同じで、食品中の成分と結合していない水。
自由に動き回ることが出来るため、0℃で氷になり100℃で蒸発して水蒸気になる。
パン生地中の水分はオーブンで焼くことで蒸発していきます。
という事は、高温で加熱しても蒸発しにくい『結合水』が多いほど、
パン生地に残る水分は多いと考えることができます。
つまり、水和が進み結合水の多いパン生地は、より水分を多く含みしっとりします。
また、焼きあがったパンにおいても、『自由水』は小麦粉の成分にしっかり吸着されていません。
そのため、水和が不十分で自由水が多いパン生地は、翌日に硬くパサつきやすくなります。
余談ですが、この『結合水』『自由水』という考え方をすると、
パンの材料の砂糖の役割がわかります。
砂糖を配合した生地は、次のような特徴があります。
①パン生地が柔らかくしっとり焼きあがる
②時間がたっても硬くなりにくく、パサつきにくいパン生地に仕上がる
上記の2つは『水和』による効果と同じですね。
砂糖は水によく溶けます。
これは、砂糖が水と強く結びつくことができるためです。
砂糖と強く結びついた水は『結合水』です。
砂糖の配合が多いと、パン生地中の『結合水』の割合は多くなります。
言い換えれば、砂糖には水分を引きつけて離さない『保水性』があるために、
砂糖を配合した生地はしっとり感の長持ちするという事になります。
結合水と自由水については下記のホームページの内容がとてもわかりやすく、
参考にさせて頂きました。
https://nutrition.nuas.ac.jp/tips/000068.html?msclkid=1cb4f553b70811ec98d870a7e44b6019
『水和』をどう活用する?パン生地の製法について
小麦粉の水和は、パン作りの様々な製法で活用されています。
ポイントは、水和を進めるためには時間が必要!という点です。
水和を活用している製法の例をいくつか紹介します。
①低温長時間発酵法(冷蔵発酵法・オーバーナイト法)
この製法はストレート法のひとつなのです。
ストレート法というのは、捏ねる過程が1回のみの製法を言います。
数時間で完成するパン作りというイメージですが、
捏ねる回数が1回だけという面では、冷蔵発酵法もストレート法の一種になります。
ストレート法については、こちらのブログに詳しく記載しています(^^)
【豆知識】パン作りのストレート法とは?メリット/デメリットを詳しく解説
冷蔵発酵法では、通常は2日間に分けてパン作りを行います。
◎1日目:捏ねる。
冷蔵庫で一晩かけて一次発酵を行う。
◎2日目:分割・成形から開始し、焼成する。
このように、一次発酵を時間をかけて行うことで、パン生地の水和が進みます。
すると、冷めても翌日になってもふわふわ。柔らかさの長続きするパンを焼き上げる事ができるのです。大変な作業を2日間にわけて行うので、体力的にも負担が少ないのもメリットです。
冷蔵庫の中で生地が冷えてしまえば、イーストの発酵活動はほぼ止まってしまいます。
そのため、2日目は都合の良い時間に冷蔵庫から出して焼けばOK。
お仕事や家事でパン作りのためにまとまった時間がとれない方にも、
気軽に挑戦する事のできる製法だと思います。
②オートリーズ
フランスパンなどの製法のひとつです。
まず、配合の小麦粉と水、モルトエキスを数分混ぜ合わせます。この生地を20分~1時間休ませます。
その後、配合の残りの材料を加えてパン生地を捏ねていく製法です。
小麦粉と水分を混ぜ合わせた後、休ませる間に小麦粉の中まで水分が浸透していきます。
③中種法
パン生地を作る前の段階で、『発酵種=中種』を準備します。
中種の材料を混ぜ合わせ発酵させます。
その後、配合の残りの材料を加えて、パン生地を捏ねていく製法です。
中種に使用する小麦粉の量は、配合の小麦粉の50%以上です。
(小麦粉200gの配合の場合、中種に100g以上の小麦粉を使う。)
2段階にわけてパン生地を混ぜてこねていくという点では、オートリーズと中種法は似ていますね。
中種を発酵させている時間をかけることで、
配合の50%以上の小麦粉の水和が進みます。
結果、全ての材料を混ぜて出来上がったパン生地もしっとりパサつきにくくなります。
冷蔵発酵法、オートリーズ、中種法の効果は『水和』だけではありませんが、ここでは他の効果については省略しますね。
ストレート法のパン作りで『水和』を活用しよう!
前章の冷蔵発酵法のところでもお話しましたが、
ストレート法は、パン生地の配合の材料を混ぜてから、一工程でパン作りを行う製法です。
捏ね⇒一次発酵⇒ベンチタイム・成形⇒最終醗酵⇒焼成
ここでは、数時間でパンを焼き上げる事のできる家庭では最も一般的なストレート法についてお話していきたいと思います。
数時間で行うストレート法は発酵種を使う製法よりは、パン生地の熟成時間は少なく水和の効果も低くなります。一方で、素材の風味を活かしやすい製法でもあります。
ここでも、ポイントは時間です!
ストレート法のパン作りで、時間を長くとることができるのは、、
一次発酵です!
捏ねやベンチタイムなどは、適当な時間がありますよね。
一次発酵を長くとるために、考えられる方法は色々とあります。
私は以下の2点を守ることで、家庭で行うストレート法でも
時間が経っても固くならないふわふわのパンを焼くことができると考えています。
Ⅰ、イーストの量を少なめにする
Ⅱ、一次発酵の途中でパンチを行い、グルテンの強化とともに発酵時間を長くとる
菓子パン生地などの乳製品や卵の風味が強い時には、
発酵時間を長くとることが大きく影響しないこともあります。
ただ、『発酵』という大切な工程において、
少ない量のイーストの力を最大限に活かして水和を進めることで、
ストレート法であっても翌日も硬くならないパン生地を作ることができます!
むしろ、発酵を適切にとることができ熟成されたパン生地は、
焼きたてよりも少し時間が経ってからの方が、
よりパン生地の美味しさを味わうことができます。
なんだか、力は入ってきました(笑)
適切に時間をかけることで、パンが美味しくなるという事は事実です。
短時間で作る/イーストを多く配合したパンも、手軽さという面では素晴らしいレシピです。
ただ、そこでは得られない味わいを生み出す事ができるのも、時間が作り出す『発酵』と『水和』の力だと思います。
◎まとめ◎時間がパン生地を美味しくする/小麦粉の『水和』を活かしたパン作りを楽しもう!
小麦粉のひとつひとつの粒の中心部まで水分がしみ込んで、強く結びつく。
『水和』が進んだパン生地は、
しっとりした食感が長持ちします!
水和を進めるためにはある程度の『時間』が必要です。
忙しい生活の中で、パンを作る時間をとるのは大変ですよね。
でも、パン作りの工程の発酵や生地を休ませる時間は、むしろフリー時間。
家事をしても良いし、テレビを見ても、、買い物に行ってもOK。
パンにずっと付きっきりでなくても良いのです。
パンはずっと見ていなくても怒りません゚(^J^)
たまに覗いてあげて、面倒を見てあげれば美味しく焼きあがってくれます。
でも、、ずっと放っておくと痛い目をみますよ(笑)
これは私も経験済みです(^_^;)
そののんびりさが、パン作りの好きなところでもあります♪
時間をかけることは、実は最高の贅沢、、だと思います( ´ ▽ ` )ノ
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参考文献
パン作りの失敗と疑問をスッキリ解決する本
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム
パン作りの疑問に答える パン「こつ」の科学
BREAD-パンの愛する人の製パン技術理論と本格レシピー
パン作りに困ったら読む本
NEW 調理と理論 第二版