パン作りの工程は、考えてみるととても複雑です。
捏ねる、発酵、成形、焼成は行わないとふんわりしたパンにならないでしょう、、と単純に思いますね。
では、ベンチタイムは?
少しパン生地を休ませます!とレシピにも書いてありますが、
この工程の本当の意味は何なのでしょうか??
グルテンの構造に注目して、深く考えていきたいと思います!
【基本のパン作りの工程】ベンチタイムは生地を休ませる時間/グルテンを弛緩させて伸びやすくする
基本的なパン作りの工程を図1に示しました。
捏ね⇒発酵①⇒(パンチ)⇒発酵②⇒分割・丸め⇒ベンチタイム⇒成形⇒最終発酵⇒焼成
それぞれの工程での生地の状態を思い浮かべてみましょう!
パン生地の固さや伸びやすさはどうなっているでしょうか?
①捏ね
よーく捏ねたパン生地は、弾力があってプリプリしていますね。
小麦粉に含まれるタンパク質(グルテニンとグリアジン)は、材料の水を吸収します。
そしれ、【捏ねる】という物理的な刺激を加えるとグルテンという密な網目組織になります。
グルテンは捏ねた直後は、粘り気と弾力が強く緊張した状態です。
②発酵
捏ねたパン生地を発酵させます。
パン生地は2倍位に膨らんでいますね。パン生地の弾力はどうでしょうか?
これはフィンガーテストで、パン生地を触っている方が多いはずなので想像しやすいですね。
捏ねた直後よりも、パン生地は柔らかくなっています。
この時、グルテンの構造は弛緩し、伸びやすい状態です。
人間は何もしていないです。ただ、パン生地を休ませる(発酵させる)だけ。
これだけで、パン生地の様子は全く違うものになります!
ここまで考えると、後の工程も大きく2つに分けて考えることができます。
①力を加える工程⇒グルテンを緊張させる方向へ
捏ね、パンチ、分割・丸め、成形
②休ませる工程⇒グルテンを弛緩させる方向へ
一次発酵、ベンチタイム、最終発酵
つまり、ベンチタイムはパン生地を休ませる時間です。
そして、グルテンは弛緩して伸びやすくなることがわかりますね!
では、②の休ませる工程(ベンチタイム、発酵)で、パン生地に一体何が起こっているのか?
小麦粉の科学とイーストの発酵に着目して、考えていきたいと思います!
ベンチタイム中もパン生地は発酵している!休ませる時間でグルテンの構造に起こる変化とは?
パン作りの工程の中で、パン生地を【休ませる時間】は一次発酵、ベンチタイム、最終発酵です。
名前だけ見てみると、【発酵】という言葉がないのは、ベンチタイムだけですね。
でも、よく考えてみると、
パン生地をオーブンに入れて焼成するまでの時間、生地の中にはイースト(パン酵母)が生きています。
という事は、、
短い時間であっても、イーストの発酵活動は行われているはずです。
そして、ベンチタイム=短い発酵の時間と考えると、ベンチタイムの意味が深くわかってきます!!
発酵中に起こるパン生地の変化について2つに分けて考えていきます!
Ⅰグルテンの弛緩に影響する因子
小麦粉のグルテンに注目してみましょう!
発酵活動を必要としないうどん作りでも、練った後すぐの生地は弾力が強く、麺棒で伸ばすことが難しいです。
しかし、この生地をしばらく寝かせておくと、艶っぽい伸びの良い生地に変化します。
うどんの工程については、木下製粉株式会社さんHPを参考にさせて頂きました。
https://www.flour.co.jp/news/article/142/
この時、うどんの生地を寝かせている間にグルテンの構造が変化し、緩んで柔らかくなります。
もっと詳しく考えてみましょう。
グルテン分子はSH基を持っています。
小麦粉と水分を練った生地を寝かせている間に、もう一方のグルテン分子のS‐S結合と出会い、新たに分子間のS‐S結合(図2の赤線部分)を作ります。
図2の左側の絵のように、グルテンの分子同士のつながりが増えます。
そして、生地全体にグルテンの網目構造は複雑に広がっていきます。
分子同士のつながりが増える一方で、分子内のS‐S結合が切られた図の上側のグルテン分子は、結合が緩んで伸びやすくなりました。
以上のように、生地を休ませると弾力が減って伸びやすくなる現象を説明するメカニズムのひとつとして、SH基とS‐S結合の交換反応が考えられているようです(^-^)/
もうひとつ、グルテンの弛緩に影響するのが、発酵で生じた物質です。
発酵中、イーストは糖を分解して、炭酸ガス(CO2)とアルコールを発生します。
*発酵についてはこちらのブログ生地に詳しく記載しています。
【パンの材料の知識】砂糖の割合で使い分ける!低糖/高糖生地用インスタントドライイーストとは?
また、イーストのアルコール発酵だけでなく、パン生地の中には空気中や小麦粉から入った乳酸菌や酢酸菌が生きています。
アルコール発酵:イーストがアルコールと炭酸ガスを発生
酢酸発酵:酢酸菌が酢酸を発生
乳酸発酵:乳酸菌が乳酸を発生
アルコールはグルテン組織を柔らかくする働きがあります。
また、酢酸や乳酸などが発生すると、パン生地は酸性に傾きます。
pHが酸性になることでもグルテンは柔らかく弛緩していきます。
Ⅱグルテンの弾性を強化する因子
発酵中、パン生地はどんどん柔らかくなっていくようにみえます。
しかし、その一方でグルテンが強化されて、弾力も増していきます。
発酵中は、グルテン膜に炭酸ガスが包まれて、パン生地は膨らみます。
図3に模式図を示しました。
炭酸ガスはグルテン膜を内側から刺激していて、グルテン膜に物理的な力が加えられている状態です。
このように、発酵中は弱いながらもグルテンが刺激されて緊張しています。そのため、パン生地は緩む方向に進むだけでなく、適度な弾力も保たれています。
ベンチタイムは時間が短いので、以上のような発酵で起こるパン生地中の変化は、一次発酵や最終発酵と比べればわずかなものだと思います。
ただ、ベンチタイムも発酵の時間!少しずつパン生地は変化しているという意識を持っていると、ベンチタイムのベストなタイミングを逃してしまう、、という失敗が少なくなるはずです。
ベンチタイムを行う意味は?グルテンの弛緩と緊張のバランスを考えよう!
ベンチタイムは短い時間ですが、その間もパン生地は発酵しています。
そして発酵中は、グルテンの構造が【弛緩】と【緊張】の両方の変化が起こっています。
でも、弛緩と緊張は全く逆方向の変化ですよね。
結局、発酵中はグルテンの構造に何が起こっているのでしょうか?
冒頭でパン作りの工程は、2つに分けられる事を書きました。
①パン生地に力を加える工程:捏ね・パンチ・分割・丸め・成形
⇒グルテンを緊張させる方向へ
②パン生地を休ませる工程:一次発酵・ベンチタイム・最終発酵
⇒グルテンを弛緩させる方向へ
パン作りのどの工程でも、グルテン構造の【弛緩】と【緊張】はどちらか一方が働くわけではなくて、双方がバランスをとっています。
そして、どちらに傾いている状態かで、パン生地の様子が変化していきます(図4)。
図4の右側は『発酵』時
グルテン構造の【弛緩】と【緊張】がどちらに傾いているかを表したイメージ図です。
前の章で書いたように、発酵中はグルテン構造の弛緩と緊張が両方起こっていますね。
この時、より大きい影響力があるのは、弛緩する現象です。
そのため、発酵中にパン生地は柔らかく伸びやすい状態に変化していきます。
図4の左側は【分割・丸め】の時のイメージ図です。
発酵時間でパン生地は弛緩する方向に進みました。
その後、分割・丸めによって物理的な刺激が加わります。
すると、弛緩と緊張のバランスは緊張状態に傾いて、パン生地は弾力を増して伸ばしにくくなります。
このように、パン生地を分割して丸めた直後は弾力が強く、成形して様々な形をつくりだすには不向きな状態です。
いよいよ、ベンチタイムの登場です!
◎分割・丸めの後の生地は、弾力があって自由に形を作ることができない。。
↓
◎パン生地を伸ばしやすく、柔らかくしたい。
↓
◎パン生地を休ませれば良い!!
これがベンチタイムを行う意味です(^。^)
図5の左側にベンチタイムを適正にとった時のグルテン構造の【弛緩】と【緊張】のバランスのイメージを示しています。
図4で成形・丸めの後にグルテンの構造は【緊張】に傾いていましたが、
ベンチタイムの時間にパン生地を休ませる事で、バランスが【弛緩】に傾きました。
ベンチタイムの意味
グルテンの構造:【緊張】⇒⇒【弛緩】へ
成形するために、伸ばしやすく適度に柔らかいパン生地に変化させる時間
ベンチタイムが不足するとどうなるのか?適正な時間の見極めは
ベンチタイムが不足した時、グルテン構造の【弛緩】と【緊張】のバランスがどうなるのかを上の図5の右側に表しています。
ベンチタイムが不足している状態では、グルテンの構造は【緊張】に傾いていて、
パン生地は弾力が強くのびません。
この状態で、パン生地を成形するとどうなるでしょう?
無理に麺棒をかけたり、丸めると表面の生地が切れてしまい、荒れた状態になります。
結果として、グルテンの組織を傷める原因になってしまいます。
では、ベンチタイムでどれくらいの時間をおけば良いでしょうか?
ずばり、パン生地の弾力が緩むまで!!
曖昧、、(笑)
でもね。自分の目と手の感覚は一番大切です。
自宅でパン作りをするときは、通常ベンチタイムは室温で行いますよね。
室温は、季節で10℃以上の差があります。
ベンチタイムは発酵の一部です。温度が違えば、発酵の進み具合は全く違うのです。
ベンチタイム前後のパン生地の写真です。
丸めたパン生地を大きさは少しだけ膨らんでいます。
そして、見た目も緩んで横にだれた感じです。
触ると、明らかに弾力が緩んでいるのがわかりますよ(^。^)
ただ、目安の時間は知っておくと良いですね。
私の経験上は約15分。これが基本だと思います。
小さいパンで、成形が丸めるだけ等で複雑なものでなければ、もう少し短い時間でも問題ありません。
ここの微調整で考えるポイントは、、どんな形の成形を行うか!
例えば、バターロールのようにパン生地を薄く伸ばしたいのに、ベンチタイムを短めにしては、確実にパン生地は傷みます。
自分自身も、なかなか伸びないパン生地に悪戦苦闘。。
そして、大丈夫そうかな?と成形してみて、、まだ弾力が強い。という事もありますよね。
こんな時は無理しない!一歩目で立ち止まって、ベンチタイムを再開しましょう。
5分休ませるだけでも、パン生地の様子は大分変わります。
最終的には自分の目と手の感覚です。
レシピの時間あくまで目安です。
パン作りの時間は、パン生地と真剣に向き合いましょう!
でも、ずっと見てなくても良いです。たまに、じっと真剣に見る!これが大切です( ´ ▽ ` )ノ
ベンチタイムはとりすぎるとダメなのか?時間が長いと過発酵に要注意!
ベンチタイムが不足すると、パン生地の弾力が残っているために成形で生地切れの原因になります。
では、逆にベンチタイムは長いとダメなのか?考えていきたいと思います。
基本に戻りましょう!
ベンチタイム中もパン生地は発酵しています。
という事は、、
時間を長くとって、限度を超えてしまうと
過発酵(ToT)。。。
これは避けなければなりません!!
ただ、家にあるオーブンで1回で焼くことができない場合。
ベンチタイムで時間差をつけて、天板を2枚用意する事があります。
焼き時間が短い場合は、室温に置いておいても通常は過発酵まで行くことはありません。
注意するのは、室温が高い夏場です!!
温度が高いと、ベンチタイム中に発酵がどんどん進んでしまいます。
では、どうすれば良いのか?
ベンチタイムの時間を長く取りたい場合、、
丸めたパン生地を冷蔵庫に入れましょう!ただし、乾燥にはすごく注意する!
低い温度に置けば、発酵は進みにくくなります。
冷蔵庫や野菜室の庫内は約10℃以下になるはずです。
乾燥を防ぐためには、パン生地を乗せた台ごとビニール袋ですっぽり覆ってしまってください。
ベンチタイムは乾燥に要注意!パン生地には何を被せると良いのか?
ベンチタイム中だけではなく、パン作りの工程では常に乾燥に注意する必要があります。
パン生地の表面が乾燥してしまうと、パン生地が膨らみにくくなったりと様々に悪影響があります。
パン生地を乾燥させないために、
私は、濡れ布巾をパン生地に被せて覆っています。
ラップはパン生地にくっつく事があるので、私は使いません。
ラップをするなら、濡れ布巾の上から更に乾燥防止のために被せます。
色々なレシピを見ていると、
◎ビニールを被せる
◎ベンチタイム中も発酵器にいれる
など、様々に工夫されている方がいますね。
やりやすさは人によって違います。
パン生地を傷めずに乾燥しなければ、何を使っても良いと思います。
◎まとめ◎【ベンチタイムの意味】グルテンの構造を弛緩させて、伸びやすく成形しやすいパン生地に変化させる時間
パン作りの工程のひとつである【ベンチタイム】
15分位ただ待っているだけ。
という何もしない工程ですが、実は深い意味があります。
グルテンの構造はパン作りの工程の中で【弛緩】と【緊張】のバランスを取りながら、
変化しています。
ベンチタイムはグルテンの構造を【弛緩】の方向に進ませる時間です。
そして、短い時間でもパン生地は発酵しています。
写真のチョココロネを作る場合にも、分割したパン生地を細長く伸ばす必要があります。
そのためには、パン生地が柔らかく伸びやすい事が重要。
パン生地の弾力が残っているうちに無理に伸ばしては、パン生地を傷めてしまいます。
ただし、ベンチタイム中も温度と乾燥には要注意!!!
これはしっかり守りましょう\(^^)/
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西東京市パン教室アトリエエピス 井手芙雪(いでふゆき)
参考文献
木下製粉株式会社ホームページ
パンを科学する-パンの多様性とパン選びのポイント-https://www.jafs.org/pdf/HP_publication_contents.pdf
パン作りの疑問に答える パン「こつ」の科学
パン作りの失敗と疑問をスッキリ解決する本
科学でわかるパンの「なぜ?」
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