ベタベタ。水の量が多いとこねるの大変。。
みずみずしくもっちり食感のパンを作るために、
パンの水分量を増やしたいと思うことはありませんか?
どんなパンでも加水を多くすれば良いというわけではありません。
水分量をふやすと、だれてしまって膨らみが悪くなることもあります。
ですが、、やっぱりリュスティックやロデブなどの高加水のパンは美味しい!
と強く思います(笑)
このブログでは、家庭でも作りやすいカンパーニュに焦点を当てていきます。
キーワードは『水分量』と『こねないパン』そして『低温長時間発酵』。
この3つで生み出される、究極のカンパーニュの美味しさの原理を紐解いていきたいと思います。
こねないパンのメリットとは?
こねないパン。一時とても流行りましたよね。
今はもう定番になっているかもしれません。
事実、こねないのは楽ですよ。
機械こねでも手ごねでも、『パンをこねる』のは大変です。
時間もかかるし、体力も必要です。
その『捏ねる作業』を省略できるのは、家庭でのパン作りでは最大のメリットだと思います。
ここで終わっては、つまらないですよね(笑)
何より大切なのは、パンのおいしさです。
こねないパンで作ることができるのはどんなパンでしょうか?
上の写真は、私が作った『こねないパン』です。
ドーンと大きく焼きました。加水多めです。
この断面の気泡はとても特徴的です。
◎大小の気泡がボコボコしている。
◎気泡を包む膜が分厚い。
食べてみるとモッチモチです。
そして、パンの皮(クラスト)はパリっと香ばしい食感。
バケット、リュスティックなどのハード系のパンの特徴と同じですよね。
パン生地を『こねない』ことで、上記のような特徴のパンを焼くことができます。
こねないパンも、工程をしっかり行うと格別のおいしさになります。
流行るのも納得です。
こねずに楽チン、味は美味しいなら言うことなしですよね。
こねないパンはなぜ膨らむの?
ここからは、こねないパンが膨らむ原理について考えていきましょう。
パンが膨らむために必要なもの。
それは、グルテンです。
そして、グルテンを引き出すために行うのが『捏ねる』という作業です。
力を加えることでグルテンの網目構造が密になります。
すると、パン生地が弾力をもってプリプリとしてきますね。
さて、こねないのにグルテンはできるのでしょうか?
答えはYESです。
ただし、しっかりこねて作るパンとは特徴の異なるグルテンが出来上がるのです。
これが、こねないパン独特の食感に結びついてきますよ。
捏ねるという作業をなしに、パンが膨らむのに必要なグルテンを引き出すのが
こねないパンの最大のポイントです。
そして、そのポイントは2つ。
パンチと寝かせる時間です。
【パンチ】で引き出す強いグルテン
パン生地をこねずに、グルテンを作り出す一つ目のポイントは『パンチ』です。
パンチというのは、一次発酵の途中でパン生地を折りたたむ作業のことを言います。
パン生地に力を加えることで、グルテンを強化します。
実際にパンチを行ったパン生地は、プリっと弾力を持つのが目に見えてわかります。
捏ねる時ほどの多くの圧力が加わるわけではありませんが、
パンチを行うことでパン生地に無理な負担をかけずにグルテンを強化する事ができます。
何回のパンチを行うかは、レシピによって異なります。
作りたいパンの食感によって、パンチの数を使い分けていきます。
パンチの効果についてはこちらのブログで詳しく解説しています。
【検証】きめ細かい食パンを作りたい!『パンチ』の効果と意味について解説
寝かせる時間で自然につながるグルテンネットワーク
もうひとつ、パン生地をこねずにグルテンを作るポイントが『寝かせる時間』です。
寝かせる時間=発酵 という事になりますね。
これは、実際のパン生地の変化を見ていただくのが一番わかりやすいと思います。
A⇒Bのパン生地の違いは歴然ですよね。
この1時間、ただパン生地を放置していただけなのです。
さて、Bのパン生地の見た目の特徴をあげてみますね。
◎ツヤツヤしている
◎よく伸びる
上記の特徴はグルテンの網目構造が密に複雑に絡みあった結果です。
このグルテンの変化について詳しく説明すると、すごーく長くなってしまうのでここでは要点のみをお話しますね。
もっと知りたい!という方は、こちらのブログを一読いただければと思います。
正直マニアックな内容ですが、グルテンについて深く掘り下げて説明しています。
【パン作りのなぜ?】捏ねないパンが膨らむ原理とは?グルテンが出来る仕組みを考える!
さて、パン作り経験のある方に質問です。
発酵前と後のパン生地は、どちらがやわらかいですか?
もちろん、答えは発酵後です。
発酵後のパン生地は柔らかくよく伸びるようになります。
これをグルテンの弛緩という言い方をします。
一方で、こねた直後の(力を加えた)パン生地のグルテンは緊張して弾力があります。
グルテンを一本一本のひもの集合体だとイメージしてください。
こねた後のグルテンはひもが束のように一方向のみにかたまっています。電線の束のようなイメージで、固く伸びが悪い状態です。
このパン生地を寝かせると、一方向のみに向いていたグルテンがほぐれてネット包帯のように縦横に緻密な網目構造を作っていきます。
この状態になると、弾力が弱くなりやわらかいパン生地になります。
これがグルテンの弛緩です。
薄くのばしてもきれない、柔軟性のあるしなやかなグルテンに変化していきます。
もうひとつ、グルテンに刺激を与えているのが、、イーストが発生する炭酸ガスです。
イーストの発酵活動では炭酸ガスが作られます。
炭酸ガスはパン生地の中に溜まっていき、パン生地を膨らませるもとになります。
この時、炭酸ガスはまさしく風船を膨らませるように、
内側からグルテンに力を加えて、グルテンを強化していきます。
こねたり、パンチに比べればわずかな力ですが、
発酵中にもグルテンが緊張し強化されます。
寝かせる時間で、パン生地の弾力は少しずつましているのです。
パン生地を寝かせる時間には、グルテンの弛緩と緊張という一見反対の現象が、
バランスをとりながら変化していきます。
◎弛緩⇒グルテンの束がほぐれて、縦横の網目構造になる
◎緊張⇒炭酸ガスの力がグルテンを刺激する
どちらかが強くなりすぎてもバランスが崩れてしまいます。
つまり、適度な時間を寝かせるのはOKですが、過発酵は絶対にNGです。
反対に寝かせる時間が不十分だと、柔軟なグルテンが作られません。
シーソーのように弛緩と緊張のバランスをとる事。
パン作りをする時にこの事を考えながら行うと、失敗が格段に減りますよ。
冷蔵発酵でかなう低温長時間熟成のパン作り
こねないパンを十分に膨らますために必要なグルテンを作るには、
寝かせる時間が最重要です。
つまり、一次発酵を長くとる工夫が必要なわけです。
発酵時間を長くとるためのポイントは2つです。
◎少量のイースト
◎冷蔵発酵
イーストが発酵活動の主役ですから、単純にイーストの量を減らせば発酵はゆっくりになります。
また、イーストの発酵活動に影響するのは温度です。
イーストは40度位で最も活発に発酵します。
そのため低温になればなるほど、発酵はゆっくりになります。
特別な機械のない家庭のパン作りでは、冷蔵庫か野菜室を活用するのがオススメです。
パン生地を一晩かけて冷蔵庫でじっくり発酵させます。
その寝かせる時間で、柔軟でしなやかなグルテンを作りだすのです。
上の写真のように、冷蔵庫で一晩寝かせたパン生地は、やわらかくツヤツヤとしています。
長時間発酵でおいしさを引き出す2つのポイント
長時間発酵=美味しそう!
なんとなくそんなイメージがありますよね。
パン屋さんでも『2日かけた食パン!』などなど、
手間と時間をかけたパンは特別感があって、つい買ってしまいませんか?
でも、なんで長時間発酵させると良いの?
と聞かれると、『ううう・・・』と言葉に詰まってしまう。。あるあるです。
私も、長時間発酵について学びはじめるまではそうでした。
何となく良さそうだけど、自分で作るのは難しそう。と思っていました。
長時間発酵にはパンのの美味しくする秘密が隠されています。
とても面白い内容(と思っています(笑))なので、
主なポイントを2つだけご紹介しますね。
ポイント①水和~小麦の粒の芯まで水分がしみ込む~
『水和』という言葉は、あまり聞きなれないかもしれません。
パン作りでいう『水和』は、
材料の水分が小麦粉や砂糖、塩などとがっしりと結びついて離れなくなる事を言います。
十分に水和したパン生地は、オーブンの中で焼いても水分がパン生地の中に残ります。
その結果として、みずみずしくしっとりとしたパンになるのです。
水和ってすごい!どうすれば良いの?と聞きたくなりますよね(^^)
水和に必要なのは『時間』です。
ご飯を炊く前に白米をお水に浸けておくのと同じです。
小麦粉もオーブンで焼く前に水分に触れている時間が長い方が、
小麦の粒の芯の奥まで水が浸透するのです。
長時間発酵のパンがしっとりしている理由は『水和』が重要ポイントになります。
2つ目のポイントに移ります。
長時間発酵が生み出す美味しさの秘密
ポイント②~発酵で生み出される複雑な香りの成分~
発酵活動の主役はイーストです。
イーストは発酵によって炭酸ガスとアルコールを作り出します。
実は、パン生地の中で生きているのはイーストだけではないのです。
空気中やパンの材料の中から、乳酸菌や酢酸菌などの細菌が
パン生地の中に入り込んでいるのです。
これらの細菌は有機酸(乳酸、酢酸など)を産生します。
そして、この成分がパンに複雑な奥深い香りをプラスするのです。
短時間で作るパンでは、この働きは弱くなります。
長時間発酵でじっくりと発酵させることで、
パン生地の中に『しみじみ良い香りだなぁ』と思わせる成分が蓄積していくのです。
長時間発酵のメリットについては、他のポイントも含めてこちらのブログに記載しています。
ぜひ参考にしてくださいね(^^)【
手作りパンが翌日まで極潤しっとり!】冷蔵発酵(長時間低温発酵)のメリットとは?
パンの水分量を増やしてもっちもち
『高加水』のパンはどんな食感でしょうか?
イメージ的にはもちもちのハード系といった感じでしょうか。
私がすぐ思いつくのは、リュスティックです。
はじめてパン屋さんで食べたリュスティックは衝撃的でした。
固めのクラスト(皮)の中に、もっちもちの柔らかいクラム。
『うまー』と思わずため息です(笑)
前置きが長くなりましたが、
パン生地の水分量が多くなると
みずみずしくてもっちもちのクラム(内相)のパンになります。
単純に材料の水分が増えれば、小麦粉が吸う水の量も増えるはずです。
小麦粉は炭水化物ですから、デンプンを多く含みます。
デンプンは水を含むと粘ります。
炊きたてもっちりご飯のイメージです。
白米を炊くときは、お米の量の約2倍の水を入れますよね。
それくらいにデンプンは水を吸い込みます。
パン生地の中でも、デンプンが吸水するのに十分な水分があれば、
もちもちとみずみずしい食感になるのです。
小麦粉のデンプンについてはこちらのブログで深堀りして解説しています!
【パンの材料Q&A】小麦粉の役割とは?グルテンとデンプンについて解説!
こねないで作る!究極カンパーニュ
ここまでのまとめをしながら、カンパーニュを作っていきたいと思います。
こねないパンのポイントは2つです。
パンチと長時間発酵。
パンチを繰り返し行い、野菜室で長時間発酵を行います。
一晩、野菜室で発酵させて約2.5倍のおおきさに発酵させます。
ここから、さらにパンチをした後に成形をしていきます。
クープをいれて、蒸気をいれたオーブンで焼き上げます。
断面はこちら。(ライ麦を配合しているので茶色っぽくなっています。)
こねないパンの特徴が現れていますね(安心しました(笑))
◎ボコボコと大小の気泡
◎分厚い気泡の膜
これらの気泡の特徴のナゾ。気になりますよね(^^)
こねないという事は、グルテン膜の繋がりは弱くなります。
グルテンを風船のゴムの部分、炭酸ガスを風船を膨らませるガスだとします。
こねないパンは、弱く簡単に割れてしまう風船が集まっている状態です。
部分的に弱い風船が割れて、おとなりさんの風船をくっついて大きな気泡のかたまりができます。
必然的に、気泡の膜も分厚くなりますよね。
これが、ボコボコの気泡ができる理由です。
また、パン生地の水分量を増やした配合にしています。
小麦粉が吸いきれない水分がある場合は、
オーブンで蒸発する水分が増えるので、気泡が大きくなりやすくなるのです。
ちなみに、よく捏ねてリッチな配合のパンの断面はこちらです。
きめ細かくてふわふわ感が伝わってきますね。
よーくこねた生地は、グルテンの網目構造が緻密になります。
膨らんでもひとつひとつの風船が割れずに残るので、小さく均一な気泡がたくさん残るという訳です。
◎まとめ◎こねないパン初挑戦なら、カンパーニュがオススメな訳
こねずに楽チンなこねないパンですが、
そのメリットを最大限に活かすなら、3つのポイントが重要だと思います。
①パンチ
②長時間発酵(冷蔵発酵)
③多めの水分量
グルテンが弱く、水分量の多い生地はベタベタで超扱いづらいです(^_^;)
慣れないうちは難しい成形ではなく、
できるだけパン生地を触らずにできる分割なしのカンパーニュがおすすめです。
発酵カゴにいれてしまうので、形もある程度はしっかり決まります。
水分量の配合やパンチの回数などは、レシピにより様々です。
私は基礎科でこねないパン生地で作るカンパーニュのレッスンをしています。
パンチの意味をパン作りの中で、身につけて欲しいという意図があります。
基礎科で作るレシピも通常よりは水分量は増やしていますが、
家でも復習しやすいように、扱いやさとのバランスを考えて水分量を決めました。
どんな人が作るのか?
どんな人が食べるのか?
その意識でレシピを選んでいくと、満足できるNo.1カンパーニュが完成するのではないかと思います。
なので、生徒さんには小麦粉を変えても、水分量を増やしてチャレンジしていただくのも大歓迎です。
むしろ、結果を共有してほしい。気になるので(^^)
こねないパンの可能性もどんどん広げて行きたいと思っています。
私も、いろいろチャレンジしていきますよ♪
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生徒さんひとりひとりの家庭の環境に合わせたパン作りを。
パン作りの「なぜ?」をマニアックにお伝えしています(^^)
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参考資料
パンの世界 基本から最前線まで
科学でわかる『パンのなぜ?』