計量して捏ねて、、、時間をかけて作ったパン。
二次(最終)発酵も膨らんだし、いざオーブンへ!!!
ところが、、、
◎オーブンに入れる前よりも小さくなってる(゚д゚lll)
◎焼き色ついてない!!!
◎なんだか変な臭いがする
◎もそもそして硬い。。
◎パンの味がしない(;_;)
とにかく美味しくないのです。
なんでーーー???
可能性として考えられるのは
過発酵です。
自宅でパン作りをしていると、過発酵を経験したことのない人はいないのではないかと思います。
今回は捏ねた後に行う『一次発酵で過発酵になった場合』に焦点を絞って
詳しく解説していきたいと思います。
【検証①】一次発酵で過発酵になったパン生地とは?
この検証は、夏場でのパン作りは過発酵に注意して欲しいというブログ記事の続きです。
【初心者さん必見】夏場のパン作りは過発酵に要注意!
【仕込み水の温度】を変えて、同じ配合で捏ねたパン生地の
『捏ね上げ温度』を測りました。
捏ね上げ温度が高い29.6℃のパン生地
捏ね上げ温度が目標通りの25.6℃パン生地
この2つのパン生地を35℃の発酵器で一次発酵させます。
まず、捏ね上げ温度が目標通りのパン生地は、50分で適正な発酵状態になりました。
約2倍に膨らんでいます。
パン生地は張りを残した状態で、表面は光沢があり、ツルっとしています。
フィンガーテストをすると、開けた穴が少しだけ押し戻される様子がよく分かります。
次に、捏ね上げ温度が高いパン生地の発酵中の様子を見てみます。
同じ35℃の発酵器で50分後、こちらは適正な発酵状態は超えていました。
約3倍に膨らみ、生地の張りがなくなってかなり柔らかくなっています。
ここでは、極端な例を示したいと思いますので、
このパン生地をさらに35℃の発酵器に入れて合計65分発酵させました。
これは、、、見るからに失敗する感じがしてきます。
そして臭いもキツイ。。嫌な発酵の臭いが発酵器に充満しています。
フィンガーテストをすると、指を刺しただけでパン生地がしぼんでしまいます。
パン生地はとても柔らかく、すぐに腰折れしてしまいました。
パン生地の表面を見てください!
このザラザラ感。適正な発酵状態では、張りがあってツヤツヤしていましたよね。
もはや光沢感はなくなりました。
ここまでの過発酵になると、修復するのはかなり難しくなってしまいます。
【検証②】一次発酵で過発酵になったパン生地を焼いてみると、、、
ここでは
◎適正な一次発酵を終えたパン生地
◎一次発酵で過発酵になったパン生地
これらで作ったパンを比較・検討していきたいと思います。
一次発酵を終えた、ふたつのパン生地を分割しベンチタイム後に、丸パンに成形しました。
成形してしまうと、見た目の違いはほとんどわからないですね。
最終発酵(二次発酵)を35℃で50分取りました。
一次発酵で過発酵になってしまったパン生地の方は、少し表面がざらついているように見えますが、パン生地は発酵しふっくら膨らみました。
そして、、、オーブン180℃で15分。
焼きあがりました!!!
うわぁー(゚ロ゚)
過発酵のパン生地は、、
◎焼き色が薄くて白っぽい
◎膨らんでいない
断面を見てみましょう!
過発酵のパン生地は、
◎気泡が詰まっている
◎皮(クラフト)が厚い
味と香りを比較してみます!!
まずは、発酵が適正に進んだパン生地を食べてみます。
うん、美味しい。
*香ばしいパンの良い香り
*パン生地に甘味があって、小麦の風味がふわっと感じられる
*内相(クラム)はふんわりを柔らかい
問題の過発酵のパンはどうでしょうか?
◎ひどいアルコール臭
◎酸っぱいような、変な発酵臭
◎パン生地はもそもそと硬く、口の中に残る
◎甘味がない(味がない)
私の主観的な感想が含まれるのはご了承くださいね。
とにかく、美味しくないのです(;_;)
パンの味はほとんどなくて、その代わりにアルコール臭などの嫌な発酵臭が、
鼻に抜けて口にまとわりついてきます。。
うん、この失敗は絶対にしたくない(笑)
単純にそう思います。
私自身、過発酵の経験はありますが、ここまで極端に発酵を過剰にとったことはありませんでした。
一次発酵で過発酵になると、ここまで焼成後のパン生地に影響するとは、
正直なところ驚きました。
【メカニズム①発酵活動】過発酵になると、パン生地の中で何が起こっている?
過発酵のメカニズムについて考えていきたいと思います。
パン作りにおける『発酵』の過程は、2つの視点で考えるとわかりやすいです。
①イーストなどの発酵活動
②グルテンの変化
①イーストなどの発酵活動
結論からいうと、過発酵になってしまったパンが以下のようになる理由が分かります。
◎焼き色がつかない
◎甘味がない
◎アルコール臭
◎酸っぱい臭い
イーストの発酵活動の図を上に示しました。
【ブドウ糖】【果糖】⇒⇒発酵⇒⇒【炭酸ガス】+【アルコール】
『過発酵』というのは、発酵が過剰に進んだ状態です。
◎過発酵のパンでアルコール臭がする理由は、
イーストが過剰にアルコールを発生させるためです。
そして、発酵活動ではイーストは何を消費していますか?
糖分(砂糖など)
過発酵になるとパン生地中の糖分(ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖など)が、
イーストによって消費され尽くしてしまうのです。
つまり、、、、
過発酵になると、甘味のもとになる糖分がなくなる。
◎甘味を感じない
そして、砂糖が入っているものは焼くと焦げやすいというのはイメージできますよね。
糖分が消費されてなくなってしまうと、
◎パンの焼き色が薄くなる
という事が分かります。
パンの砂糖の役割についてはこちらのブログに詳しく記載しています。
【パンの材料Q&A】砂糖入りのパンがふわふわ柔らかい理由は?/パン作りの砂糖の役割を詳しく解説します
もう一つの『酸っぱい臭い』の正体を考えてみましょう。
パン生地の中では、イーストによるアルコール発酵だけでなく、
材料や空気中から混入した乳酸菌や酢酸菌が含まれています。
【乳酸菌】乳酸発酵⇒乳酸
【酢酸菌】酢酸発酵⇒酢酸
これらの有機酸(乳酸や酢酸など)は、適正な発酵状態では、パンの香りや旨みのもとになって、パンの味わいをよくするために大きく貢献しています。
酢酸というのは、お酢の主成分です。
*参考:ミツカンhttps://www.mizkan.co.jp/osu-information/osu/what.html
過発酵になってしまうと、
過剰に発生した酸の成分が、『酸っぱい』臭いや味の原因となってしまうのです。
【メカニズム②グルテンの変化】過発酵のパン生地がしぼんでしまう理由は?
パンがなぜ膨らむか?
これを考えると、なぜパンが膨らまないのかがよくわかります。
イメージしやすいのは、
パンの【グルテン膜】はゴム風船のゴムの部分。
イーストが発生する【炭酸ガス】が、風船に吹き込む空気です。
ゴム風船のゴムは、よーく伸びて柔らかいです。
そして、すぐに縮むような張りの強さも併せ持っています。
◎よく伸びて柔らかい【弛緩】
◎張りがあって、力強い【緊張】
この2つの特徴。どちらかが強すぎても風船は膨らみません。
ビヨビヨに伸びきったゴムは、すぐに割れてしぼんでしまうし、
厚くて硬いゴムは膨らますこともできない。
ちょうど良いバランスのところで、風船のゴムはよく膨らみます。
パン作りの工程は、【パン生地を休ませる工程】と【力を加える工程】で分けて考える事ができます。
実はパン作りでは、グルテン膜を緊張させたり、緩めたりしながら、
パン生地が膨らむための【緊張】と【弛緩】のバランスを上手く保っているのです。
発酵の過程は、パン生地が弛緩し柔らかくなっていく段階です。
過発酵になってしまうと、この【緊張】と【弛緩】のバランスが崩れてしまい、
過剰に弛緩した状態になってしまうのです。
こうなると、ビヨビヨに伸びきったゴムと同じ状況です。
炭酸ガスの空気が吹き込まれても、その空気を保つだけの力強さがありません。
結果、すぐに割れてしまう。
パンが膨らまずにしぼんでしまう事になります。
膨らみのわるいパンは、
◎食感が硬い
◎表面が伸びずに焼き固められるため、皮(クラフト)が厚くなる
このように考えることができます。
*パン作りの工程の意味についてはこちらのブログに詳しく記載しています。良かったら参考にしてみてくださいね(^^)
【パン作りの工程の意味】ベンチタイムとは?時間や見極めはどうするのか
【対処法】一次発酵が過発酵になってしまったらどうすれば良い?
正直なところ、一次発酵で過発酵になったパン生地を修復するのは、相当難しいです。
少し発酵が進みすぎたかな。。位でしたら、
とにかくその後の【分割・丸め】⇒『ベンチタイム』⇒【成形】⇒『最終発酵』の工程を手早く行います。
もう修復できないな、、、という位にひどい過発酵になってしまったら、
ダイレクトにパン生地を味わうようなパンは諦めてしまいましょう。
一般的によくおすすめされるのは、
膨らみを期待しないピザ生地にしてしまう事です。
味の濃い具材を乗せて、過発酵特有の臭いもごまかしてしまえ!!という考え方です。
何はともあれ、過発酵は絶対に避けたい失敗です。
発酵時間は誰でも気が抜けるものです。
ただ、ずっと放っておかないで、たまにパン生地の様子を見てあげてくださいね( ´ ▽ ` )ノ
*一次発酵の見極めについてはこちらのブログで紹介しています♪
【パン作りの失敗】一次発酵でパン生地が膨らまない!原因と対策は?
家庭のパン作りの正解がわからない?
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参考文献
パン「こつ」の科学
パンづくりの失敗と疑問をスッキリ解決する本
パンづくりのメカニズムとアルゴリズム
パンづくりに困ったら読む本
科学でわかる パンの「なぜ?」